申し訳無さを口にする相手を、早々に押し止(とど)めるように。
「別に、構いませんよ。
ああいう『耳に痛い話』は、素人か部外者が指摘した方が、より痛いものですから」
さら…っと、守は受け流して。
「素人…かね、君が?」
「素人ですよ、私は。
2年も暢気に地球から離れていて、昨日今日参謀に成り上がったばかりの素人で、まだ部外者のうちです」
重ねての言葉も、また受け流す。
「大体…ああ言わせる為に、私を参謀に選任したんでしょう?長官」
上層(うえ)の思惑がどうであれ、元より諾々として行動するつもりで受けた参謀職だ。
まして、自分に要求される「結果」に、こちらの思惑を乗せられるのなら…尚更に。
◇
◇
◇
◇
「兄さんっ!」
来るだろうとは思っていたから、別にその事自体には慌てもしないし、驚きもしない。
「…あのなあ…進…」
ただ…休日の朝っぱらから、どたばたと駆け込んで来て欲しくはなかった。
「艦の統括責任者たる『艦長代理』と、命令に反して実際に発進させた『操舵責任者』が、懲罰喰らっても当たり前だろう?」
そして、息せき切ってまくし立ててくるのは、案の定「処断」の件で。
「…真田さんは…?」
「職場放棄」
それも、自分自身の事ではなく、残る2人の事で。
なお喰い下がってくるのを、あっさりと斬り捨てて。
「まあ…職場放棄自体は、殆どの連中がそうだったんだけどな。
『科学局局長』の場合は…役職的にちょっと、拙いだろう?
そういう事だ」
前々回の航海に、懲罰の来る事は元より覚悟の上だったし。
古代も、甘んじて受けるつもりでは居た。
あくまでも、それが…自分1人なら…だったが。
それでも…守の言葉にも、納得は出来る。
…だが。
「…今更?」
「間違えてるなよ?
直後に処断が下されなかったのは、新人連中の…人材教育が優先されただけだぞ?」
生き残った者の処断を急ぐより、失われ過ぎた人材の補充が何よりも急がれただけの事。
それに充てられる艦が、ヤマトくらいしかなく。
ヤマトを動かせる者が、旧乗員くらいしか居なかっただけの事。
「お前を含めて、その3人だけで止(とど)まってるから、それで良いとしてろ」
納得は出来るが、今ひとつ腑に落ちない。
それを顔にはっきりと見えてしまっている弟を、話はこれでお終いだ…と、守は背中であっさり斬り捨てて。
「別に…俺たち、懲罰人事喰らったって訳じゃないですよ?古代さん。
地上勤務、イコール懲罰人事…だと思ってるでしょ?」
前回の航海から、既に2週間を過ぎて。
殆どの者は、既に新しい任務に移っていて。
「相原なんて、元々内勤希望だったんだし」
まだ仕事に入っていないのは、最初から処分待ちの謹慎に入っていた古代を除けば、加療に掛かる休暇中の島と南部だけで。
「…そうだったのか?」
「…知らなかったんですか?」
しかし、この話題でまさか、島に逢って話す訳にもいかず。
「俺なんて、これでしょ?」
結局…南部を相手に、話すしかない事になる。
「ヤマトクラスの艦ならともかく、パトロール艇クラスの中型艇じゃ乗れないですからねえ」
艦艇の大きさ、イコール居住性だと思って良い。
どちらにしても生存に不足はないが、今の南部だと艦内の重力や気圧が一定してないのは辛い。
…かと言って、現在の地球に稼動中の艦など…ヤマト以外には無い。
「…で、自ら異動を願って地上勤務な訳です。俺は」
その南部も、泣き落とすような形で佐渡から復職の許可を取って、明後日からの仕事が決定済みだ。
「砲術が専門の俺に、迎撃システムに関われ…って言うんだから、まともな異動だと思いますが?
相原の本部内勤だって、普通に考えたら『昇格人事』以外の何物でも無いでしょう?」
「そう…だよな」
「大気圏外(そと)から戻って来次第…の太田だって、航法管制官なんだから妥当なもんでしょうし」
別に…南部に言われるまで、そんな事に思い当たらなかった訳じゃない。
ただ、自分たち3人の「処分」同様、兄の…守の声掛かりだった…という事が、どうにも釈然としなかっただけだ。
「まあ…今回の古代さんたちの『懲罰人事』って、かなり微妙ですけどね」
まさか、古代の心中を察した上で…では無いのだろうが、南部はしれ…っとした顔のままで、そんな事を。
「だって、考えてみて下さいよ」
先を急(せ)っ突く古代を、一度はあっさりとかわしておいて。
「古代さんと島さんの『停職・謹慎1ヶ月』って、今の時期だと『休みくれてる』ようなもんでしょ?
この…人間の、どうにも足らないって時に」
順序立てて、最初から話を始める南部。
最初から既に謹慎に入ってた古代なら、差し引き残り後2週間。
休暇の扱いになってる島なら、その明けから改めて1ヶ月。
確かに…そういう考えが出来ない訳でも無い。
「で、古代さんはパトロール艇艇長でしたっけ?
『降格人事』には違いないけど、懲罰…とまでは言えないですよ」
艦長代理という、普通では在り得ない役職も。
艦艇の統括…という意味では、艦長職とほぼ何ら変わる事なく。
その場合、艦艇の大きさ…つまり規模の違いがそのまま、その『格』の差。
「俺が人事なら、古代さんには地上で書類でも書いてもらいます。
好きじゃないでしょ?デスクワーク」
そんな事を、けらけらと笑いながら言ってのけて。
「島さんだって、そうです。
航海長までやった人に、地上勤務は痛いでしょうけどね。
操艦経験者…が条件なんでしょう?
今度、配属されるコントロールセンターって」
普通の「異動」だと言われたら、そうかなあ…って範囲じゃないですか?…と、言葉を続けて。
「如何にも、懲罰らしいのは真田さんくらいですよ。
何処でしたっけ?
何か…どっかの小惑星基地だか、観測所だか…でしたよね?」
にこやかな顔で、淀み無く話す言葉に誤魔化されて、今頃気付く辺りも何だが。
「…南部。
俺、お前に島や真田さんの転配先を…言ったか?」
処分が自分1人に収まらず、その2人にまで至った事だけしか話してないはずだ…と。
「話してませんよ」
そう問えば、南部はいともあっさりと否定してくれて。
「こんな事、人事に問い合わせれば簡単に分かる事です。
何ならついでに、新人連中が何処に配置されたか言ってみせますが?」
いや…しかし、人事関係なら一般閲覧可能な項目に現在も将来も「所属」という項目は無いはずで。
その辺りを突付くと、また南部はしれ…っとした顔をして。
「相原経由の情報です。
相原がどうやって調べたのか…は、内緒…って事で」
そうして、またけらけらと笑いながら。
◇
◇
◇
◇
体調不良を理由にして、休暇を取っている…それを理由に一度は任務を蹴った人間が、司令本部まで出向くのはかなり面映(おもはゆ)い。
…が、以前のように入院までしている訳でもなく、日々「通院」は出来ている身で。
あちらから呼ばれてしまったなら、それは…否(いや)も応も無く。
「…懲罰でも、何でも無いような気がするんですけど…」
「気にするな」
島の言葉には、顔を上げる事さえしないで一刀両断に。
「少なくとも『降格人事』には見えるから、問題無い。
こうでもしないと、お前の地上勤務なんてまず在り得ないからな。
但し…」
そこまで言って、やっと守は見ていた書類から顔を上げて、島の方に向き直って。
「降格・懲罰…って事は、そのうち異動も昇格も有るって事だ。
そうなったら恐らく、地上勤務じゃなくなるぞ?」
「それは…承知してます、最初から」
本当に、そんな事は守からも…誰からも、言われるまでも無く。
「そこから先の…配置の面倒まで見ないからな、俺は」
「それも…分かってます」
見ない…では無く、見られない…である事も十二分に承知の上。
数ヶ月か、半年か…1年か。
また、地上を離れる任務に戻されてしまうまでの間に、自分の気持ちをきちんと組み立て直して、整理を付けておけ…と。
ご親切にも外から与えられてしまった、そんな猶予の期間。
ただ、そんな猶予を全て喰い潰した後に。
地上を離れる事を…彼女と離れる事を余儀なくされた時に、それを冷静な状態で受け入れられるようになるのかどうか…は、まだどうにも分からないままで。
「…こら」
目の前にしていたはずの守は、いつの間にか横を通り過ぎていて。
擦れ違いざまに、丸めた書類で頭を軽く叩かれて、やっとそんな事にも気付いて。
「また、要らん事を考えてるんじゃない。
今日明日中に何とかしろ…なんて、言ってないぞ」
振り返っても、守は島に背中を向けたままで。
口に出す言葉とはお構い無しに、自分の作業を続けていて。
「せいぜい…引き伸ばしてやる。
だから、明日や明後日なんて急な話じゃない、慌てる必要なんて無い」
自分を見て、言ってもらえない事がこの際…ものすごく気が楽で。
「そう…ですよね、慌てなくても…」
彼女も…自分も、2人とも。
「地球(ここ)に…居るんですよね」
◇
◇
◇
◇
また、至極当たり前の事のように。
真田の官舎に、自宅であるかの如くに押し掛けて。
「悪巧み…って、人聞き悪いな。おい?」
「悪巧みだろう?
長官の腹積もりでは、古代と俺だけ『処断くれる』つもりだったんじゃないのか?」
口に出す言葉に遠慮が無いのは、お互い様。
「まあ…確かに、それはその通りだけどな」
妙に真面目な顔をした友人の言葉は、苦笑しながらもあっさりと守は肯定して。
「本当の所は、お前だけ…で良かったんだがな。
進を抜きにしては、無理だろう?」
自分のも話し相手のも、空いたグラスに酒を注ぎ足す事も遠慮無く。
「それに、島も便乗させてもらっただけだ」
「そうか?
実際の所は、島だけじゃないだろう?」
今度は、そう笑ってみせる真田に。
「…使えそうな連中は、地上にまとめて置いときたかっただけだ。
あっちこっちにバラけてるんじゃ、いざ連絡取る羽目になった時に面倒だからな」
それが、何の事を指しているのか。
守も、全く間違えずに答えられてしまう辺り、やっぱり「友人」たる所以(ゆえん)なのだろう。
「結局、何十人の配属を細工したんだ?」
「そんなに多くないぞ、失礼な」
雪のように、最初から地上勤務だと分かってる人間も居たからな…と。
何故か、守は大いに胸を張って答えてみせて。
「島を除けば、幹部クラスで3人、新人連中から20人…程度だ」
「…十二分に大した人数だよ、古代」
結果、何故か真田に呆れ半分に溜息を吐かれてしまう。
「初めから『それ』と承知していて。
人員を取捨選択させる為に、お前をヤマトに乗せたような結果だな」
「…使える奴を見極めるのは、癖…みたいなもんだ」
皮肉じみた真田の言葉に、今度は守の方が苦笑しながら。
「使えない奴を使うのは、そいつも俺も死んじまうだけだからな。
生存本能に近い…のかもな」
しかし、口調だけはやたらと真面目に。
「大体、お前にヒトの事が言えるのか?真田?」
今思い出したかのような、守のいきなりの反撃にも、真田は全く動じた様子も無く。
「何の事だ?」
何を言いたいのか分かっていながら、空っとぼけてみせる。
「機関長の事に決まってる。
お前、俺の知らない間に機関長を『自分の側』に引っ張ってたろう?」
「…何もかも、俺1人にやらせようって言うのが、そもそも間違ってるだろう?
俺は造るのと直すのが専門だ、動かす方は知らん」
だから、機関の専門家を取り込んだんだ。
1人や2人くらいの事で小煩い事を言うな…と、当たり前の如くに言い捨てて。
「航法と、砲術の専門家も欲しいくらいだぞ。全く…」
「お前と島を同じ所に『飛ばす』と、何か裏が有りそうに見えるから不許可だ」
「そう見えようが、見えまいが。
実際、しっかり裏は有るだろうが…」
確かに…裏は有る。
ヤマトという名の戦艦の、秘密裏の保管とその改造…という裏が。
その最適任者であろう真田を、その任に就かせるのに。
前々回の航海を言い訳にすれば、別のもっともらしい大義名分を捻り出す手間が省けるから…と、あっさりと便乗してしまう事として。
「裏を分かってる奴が、裏表を語るんじゃねえよ」
そう言って守は、友人の頭をひとつ小突いた。
「実際の所を言えば、お前を異動(うご)かす為に進と島が割りを喰った…って事なんだからな」
「…まるで『兄』だな」
「元から、あれは弟だ」
「違う。
古代じゃなくて、島の方だ。
弟と同い年だと思えば、可愛いか?」
いたずらっぽく、意味有り気に苦笑する真田には。
「ヒトの弟を可愛がってくれてるような、お前に言われたかない」
今度はひとつ、蹴りをくれてやった守だ。
「…実際の所、どう思う?」
「さあ、ね」
前触れ無く、説明も無く。
一方が切り出した話に、もう一方が過誤なく答えて。
「長官の杞憂で済めば、それに越した事は無いだろうな」
「それが的中(あた)っても、たかが一隻の戦艦の、多少の改造くらいで追い着ける話かどうかも、全く知れた事じゃないからな」
それが出来る辺り、根本的な部分でかなり似通っている2人なのかも知れない。
たかが「一隻の戦艦」の、役に立ったとは言い切れない前回と前々回の航海。
その両方を乗務していて、嫌と言うほど思い知っているから、どうしても否定的で自嘲じみた事しか言えない真田。
今からすれば、恐ろしく「旧型艦」だったとしても。
それ以上の数の「艦隊」さえも、全く役に立たなかった事を身をもって知っているから。
そんな真田の言葉を、黙って聴くしか出来ない守。
「何も無ければ…そのうち、笑い話に出来るさ」
「何事も無い」という事の、本当の意味を。
「何年後の話だ?」
退屈なまでに「何も起こらない」という事の、本当の意味を。
「…5年もすれば、笑えるんじゃないのか?」
どうしようもないほどに、もう…分かってしまっているから。
「5年か…。
あっという間に過ぎそうで、その実…かなり待ち草臥(くたび)れそうな時間だな」
「遊星爆弾の降ってた期間よりは、短いさ」
何かが起こってしまってから「何も無かった頃」が、とんでもなく「平和」で「幸せな時間」だった事を。
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Tatsuki Mima