今までよりも、これから…を獲る。
それは、もう既に…決めているけれども。
全てを…持つ事なんて適わない、この手に抱えられるものには…どうしても限りが有るから。
「どう…使うかは、お前が決めろ」
その取捨選択は、この手に委ねられてしまって。
「使うか使わないか…も、お前の勝手だ」
それすら選ばない…という選択肢まで、自分に委ねられてしまって。
これからを獲れば、今までの何かを捨てざるを得ない。
それも、もう既に…決まっているけれども。
それでも…まだ、迷う。
捨てる事を決めたものもまた、自分にとっては大きなものだから。
この期に及んで、両方を抱えていられないのか…と惑う。
ただ、一つ。
捨てると決めてしまったものは、多分…二度と取り戻せないものではないと、そう信じていられるものだから。
いま少し、多くのものが抱えられるようになるまで。
それまでは…それよりもまだ、大切だと思うものが今は有るから。
だから…きっと、今は…捨てられる。
◇
◇
◇
◇
ここまでご丁寧に段取りを付けてやって、それでまだ何も思い切れない…どうにも動けないようなら、それは…もう何もしてやる事が無い。
…と言うより、もう…何もしてやる気はなれない。
「そう言いながら、次の手立ても考えてやってそうだな」
「…ああ、そうだよ。悪かったな」
友人の言葉を否定し切れない自分が、少しばかり口惜しかったりもする。
「お前…ある意味、島でシミュレートしてるだろう?
俺だったらこうする…と、その結果を見たいだけだろう?」
「…悪かったな」
それも…絶対に違うとは、否定し切れない事だったりする。
分かってる。
どんなに取り巻く状況が近くても、所詮は違う経過を辿っている別の出来事なのだと。
俺は俺でしかなく、島は島でしかなく。
性格も考える方向も、全く違う他人でしかないという事は。
だから、俺の考え方ややり方を島に押し付けても、それが必ず「良い結果」に終わるかどうか知れたものではない。
島の「結果」を俺が真似たとしても、それが必ず思う通りに運ぶとは限らない。
分かってる、そんな事は。
最初から。
「…人間(ひと)の生命に関わる事だぞ?
利用出来るもんなら、何でも使う。
俺は」
他人の思惑も、手にした権限も。
既に起こった出来事も、今起こりつつある出来事も。
「島の…感情さえ、俺1人にしてみればただの…前例で…『手駒』だ」
ただ…そんなどれも、使い捨てる気では居ないだけの事。
「…自分勝手だが、正直だな」
そんな「痛い」言葉も、真田は苦笑してみせながら口にするから。
「…笑い事じゃねえよ」
己の身勝手さを、目の前の友人にはまだ許容してもらえる事に、少しばかりほっとしながら。
しかし、笑って済まされてしまいそうな事の申し訳無さに、多分に苛立ちながら。
「俺は…お前だって…必要なら、ただの「道具」として使うぞ?」
今は…まだ、そこまでのつもりも考えも無いけれども。
それも…真実、正直な自分の気持ち。
「…使われてやろうか?古代?」
「…あ?」
いや…わざわざ訊き返さなくとも、真田の言った事が聞こえなかった訳じゃない。
その意味も、分からなかった訳じゃない。
「どういう意味だ?真田?」
ただ…過去、真田の「提案」の有った後。
「違う方面」で、ろくな事にならなかった記憶が多々有るから、多少身構えつつ、事前に確認しておく癖が否応無く身に付いただけの事だ。
「どうもこうも…お前の聞いたまま、だ」
今の所まだ、真田の肩書きは「科学局局長」のままだったが。
例の「職場放棄」で、実質的にはその任から既に外れている。
現在、実際には「副局長」が全て仕切っていて、それで機能している。
「お前1人で『2人』を護るのは、正直…荷が重いと思ってるだろう?
何処かで、無理が出そうだと」
だから…実を言えば、後任への「引き継ぎ」はすでに終わっている状態。
「…まあ、な」
手の内も思う事もバレてしまっている相手に、今更…何を取り繕う必要も無いから。
「もう少し…考える時間の余裕が有れば、違う事も考えられそうなんだけどな」
素直に、正直に。
いや…本当を言うと、八つ当たりも泣き言も、泣いて喚(わめ)いて吐き出したいくらい…なのは、まだ隠しておいて。
「だから、他の手を考え付くか。
状況が変わるまで、俺を使えと言ってるんだ」
でも、恐らくは。
そんな本当の「本音」までも、きっと…こいつにはとっくにバレているんだろうが。
「どう使え…ってんだ。
お前の使い勝手なんか…ものすごく悪そうだぞ」
だって、真田は…地球から離れてしまうから。
「簡単じゃないか。
『2人』居る事が、お前の手に余ると言うなら。
俺が片方を見れば…済むだろう?」
「…は?」
今度こそ、守は。
真田の言ってる事の意味が掴めないで、本気で訊き返した。
笑う…しかない。
「待てよ…真田。
任地赴任は、単身が原則だぞ?」
月や火星のように開発が早かったならば、その分だけ基地の規模も大きく。
居住区域環境も十二分に整っているから、家族を伴う事も出来なくはないが。
「あくまで『原則』だな?
連れて行けない訳じゃない、そうだろう?」
「それでも『家族』だけだ、連れて行けるのは」
そう…「他人」なら、それは無理だ。
スターシャが守と暮らす事が出来るのが、例外中の例外…であるように。
「…逆に言えば、義理だろうと『家族』であるなら、全く規程に触れない…って事だな?」
…そう言って、真田が笑ってみせるから。
「…おい…何、考えてる…?」
「お前が、今。
想像してる通りの事だ」
それも、狼狽(うろた)える守を見て…とんでもなく愉快そうに、笑うから。
「真面目な話だ、古代。
1人の目には、地球は広過ぎる。
全てに目が届かなくて、当たり前だ」
だが…そうと思い至らなかった自分が口惜しいくらいに、手段としては…悪くは無い。
「こっちは、小規模過ぎて出入りする人間が、至極限られる。
艦艇無しには、外にも出られない」
そして、真田は「どちらを選ぶか?」…と。
言われなくとも。
…だが…。
「…考えさせろ」
こんな事をあっさり提案出来てしまう友人の思考回路に、呆れ半分溜息を吐きながら。
「俺じゃない…スターシャに、だ」
困惑半分に、守は前髪を掻き上げながら。
「そんなには待てないぞ?
俺は…3日後だからな」
既に承知している日限を、念押しするように口にする真田に。
「忘れてない、そんな事」
その必要は無い…と、守は言外に返して。
◇
◇
◇
◇
僕と、彼女の「時間」。
1度は重なって、沿う…と見せて離れた。
2度目は交差して、そのまま…終わるかも知れなかった。
そして、今が3度目。
少しばかり沿ってはいるようで、それでも…いつまでもの先は見えない。
これから、自分はどうしたい?
…それはもう、決まっているけど。
これから先、君は…どうしたい?
…それがまだ、分からないから。
問うてしまえば、簡単に分かってしまうだろう…事も。
沿わぬ道を行く事を選ぶ…と答えられてしまうのが、どうしても…どうしようもなく怖いから。
問うて、君からその答えを聞かされてまで。
僕は…その上の自分のわがままを、拒否される事を承知では重ねては問えない…と思うから。
だから、まだ…何も言えなくて。
何も…訊けなくて。
けれども、そんな風に曖昧に誤魔化したまま。
このどっちつかずの状態のままで居られる時間の余裕も、もう…それほどには残されてはいないから。
だから…。
…だから?
◇
◇
◇
◇
卑怯なのかも知れない…とは、自分自身感じながら。
「守に…任せます」
決定を、夫に委(ゆだ)ねる事にした。
「…言ったわ。
事の起こった時には、貴方の言う通りにする…と」
そんな事を理由にして。
「まだ…起こった訳じゃない」
「それでも…もう、貴方は決めているのでしょう?
この子を…預けてしまおうと」
いつでも、そう。
ただ…ほんの少しだけ、最後の最後で少しだけ、思い迷っているだけの事。
もう決めてしまっている事を、自分以外からも肯定して欲しいだけ…の事。
そんな事も、もう…分かっているから。
「それで…良いのか?」
それでも、一応…でも、守は自分に問うてくるから。
「この子の為、なのでしょう?
何も、反対する理由が無いわ」
本当を言えば、我が子と…それもまだこれほどまでに幼い子と別れなければならない事は、とても…厭わしいけれども。
「…貴方も、良く良く考えたのでしょう?」
同じ親たる守が、そんな思いを全く感じないまま、ただあっさりと決めたはずなど決して…無いから。
…だから。
「…だから、守に…全て任せます」
きっと、それは間違っては居ないと信じるから…。
確かに、もう。
自分の中では、そう…と決めていた。
反対されてしまったなら、論を尽くして説得してしまおう…と。
本当の所は、既にそこまで考えていた。
「任せます」
そんな言葉をスターシャの口から、こうも簡単に聞けるだなんて…思ってはいなくて。
その賢しさに…舌を巻く。
悪い意味ではなく、期待を裏切られた事に…ただ、呆れるばかり。
「本当に…君は、それで良い…のか?」
既に「良い」と言っているものを、馬鹿馬鹿しいまでに繰り返して問うて。
「ええ…」
重ねて返ってくる肯定の言葉を、ただ…自分の為だけに繰り返し聞いて。
心底では、否定して欲しかったのかも知れない…と思いながら。
本当には、自分でもまだ…納得なんて出来てなかったのかも知れない…とも、思いながら。
「真田に…預けてしまえば、恐らく…逢えないぞ?」
最後のつもりで、それでもまだしつこいまでに問い直す。
何の事は無い。
こうやって…相談を持ち掛けているように見せながら、既に決定した事を言い含めるつもり…で居ながら。
実際には、まだ納得出来ないでいた自分の感情を、建前とも言うべき自分の思考と理屈に合わせようとしているだけの事。
「ずっと…では、無いのでしょう?
この子が、自分で身を護れるようになるまで…いいえ、違うわね?
この子が、貴方の言う通りに『逃げていられる』ようになるまで…だわ」
そう言って、そっと腕の中で眠る子を抱き直して。
「それなら…あっという間ね。
この子は…貴方と、私の子供なのだから」
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Last Update:20040517
Tatsuki Mima