Back-ground:02

NovelTop | 第三艦橋Top

    本当の、理由が分かってみれば古代参謀がわざわざ、僕を科学局(ここ)に出向(つれ)て来たのって…分かるなあ。 …なんて事まで、今更に。
    こうやって一応は、それらしくない名称が付けられて、司令本部からは独立していても。 間違い無く「防衛軍」の一部、未だに司令本部の直下に位置する組織で。
    その内に抱えているのは、科学技術の最先端…もっと平たく言えば「軍事機密」が、その殆ど。 人間(ひと)と物品(もの)の出入りに関して、セキュリティの厳しさは…もしかしたら司令本部以上。
「あ。 警報(アラート)鳴らしちゃった」
    僕が、僕のミスを口にすれば。
「…どうして、こんな深階層(おく)まで侵入(はい)って来るんだ。お前は…」
真田さんは真田さんで、ディスプレイの表示に溜息を吐く。
「侵入(ハック)してこい…って言われたから、その通りにしてるだけですけど?」
「お前以外の誰にテストさせても、ちゃんと『門番』に追い払われてるんだがな?」
    えーと…逆に訊き返されても、困るんだけどな。
「…どうして、追い払われちゃうんでしょうね? 他の人」
僕としては…本当に、そんな感じなんだし…。

    現実(リアル)に強固なセキュリティの下で、仮想(ネットワーク)のセキュリティの再構築を。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    帰るなら、ついでに…と。 司令本部への…古代参謀にと、ディスクを1枚託されて。
    科学局と司令本部なんて、物理的に隣同士…実質的には同じ敷地にあるようなもので。 遠回りだとか、寄り道だとか。 そんな感覚も起こらないから、当たり前に、ひどく簡単に引き受けて。
「相原です、失礼します」
    …あれ?
    思わず1歩下がって、廊下の表示を確認する。 「在室」…になってるよね?うん。
「科学局に行くと仰って、つい先程出られましたわ」
    真正面に、主の居ない机を見ながら。 古代参謀の秘書…要するに晶子さんが、すぐに戻るから表示はそのままにしておけ…と言っていたと、教えてもくれて。
「…何処で擦れ違っちゃったんだろう?」
廊下や、途中の道では逢わなかったから…エレベーター…なんだろうな。多分。
「お待ちになります?」
    問われて、どうしようかな…と。
    真田さんには、単に「渡しておいてくれ」と言われただけで、ディスクの中身も説明出来る訳じゃない。 その意味なら、僕がわざわざ待って手渡さなくとも、晶子さんに託(ことづ)けておいて問題無いはず。
    でも、現在(いま)。 僕が司令本部(ここ)じゃなくて科学局に居るのは、古代参謀の命な訳で。 執務室(ここ)まで来ておいて、何の経過報告もしないのは…変な話だし。
    まあ…古代参謀が「科学局に行く」って言ったら、十中八九真田さんに逢って来るだけ…のはずだから。 真田さんの方から、そういう事も話にしてしまいそうな気もするけど…。
「…そうします」
    結局は、仕事として正しい方の判断を。
    …個人的にもこうした方が、後からあれこれ言われなくても済むだろう…と思うし。 きっと。

    表示をそのままにして、すぐ戻る…と言い置いたって事は、せいぜい長くても半時間がいい所だろう。 後に控えてる仕事が有る訳でも無いし、待って苦になる長時間でも無いし。 ただ、座って待てば…と晶子さんが、そこに有るソファを指し示すのは、丁重にお断りして。
    座っての仕事ばかりの割に、立ち続ける事もさほど辛いとは感じないし。 大体…後で、古代参謀から何言われるか…想像も付くから。
    …どうして、ああ「余計な一言」を付け足してくれるかな、古代参謀って。 そういう点、南部も似たり寄ったりだし。 僕の周り、そんなタイプの人ばっかり集まるようになってんのかなあ…。
「相原さん」
「はい?」
    呼ばれて振り向けば、すぐ後ろ…振り向いた目の前に晶子さんが居て。
「…どうかなさいました?」
「あ、いや…別に…」
予想外に間近過ぎて、ちょっと…驚いた。
    …って、官舎(いえ)とか、外だと平気なんだけどなあ…。 何か…慣れないんだよね、司令本部内で晶子さんと居るのって。 仕事場…って、意識が有る所為なんだろうけど。
    良く、平気で乗ってたなあ…って今は思う。 古代さんも、雪さんも。 逢った最初から同じ艦内だったから、平気だったのかな?

「科学局(あちら)には、慣れまして?」
「まあ…回数だけは結構、出入りしてますし」
    科学局には、真田さんが居るからね。 遊びに…ってほどお気楽にでも無いけど、意外に行ってるんだよね。 最初から…ヤマトに乗ってた、僕たちって。
「内容も、司令本部(ここ)でやってる仕事と、それほど大差無いですし…」
    実を言えば。 ネットワークのセキュリティチェックの為にハック掛ける…ってのは、古代参謀に言われてやってたりする。 少し以前(まえ)から、年に2、3回の割で。
「…無理、なさってません?」
    少しだけ首を傾(かし)げて、ゆっくりと。
「え…?」
ちょっと…どころじゃなく、ものすごく途惑う僕。
「いや…無理なんて、してません…けど?」
    ここは司令本部で、晶子さんは「仕事中」で。 だから僕も、さっきからプライベートではなく「仕事上」の喋りをしていて。 普段にも仕事の時も、殆ど話し方の変わらない人だけど、多分…その点は晶子さんも同じだったはずで。
    …だけど、今。 それが「どっち」の意味で問われたのか…良く分からなくなって、だから…途惑って。
    それが、顔に出ちゃっていたかな…とは、後から思った事だけど。
「でも…あちらに出向(い)かれたのは、私の…お祖父さまの所為でしょう?」
そう言う晶子さんは、寂しそうな…困ったような表情(かお)をしていて。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「知って…たんですか?」
    今度こそ僕は、自分が驚いたような顔をしているんだろうと気付いていた。
「いいえ。 でも、分かりますわ。 私は…生まれた時から、ですから」
その所為か、晶子さんの方は今度は…にっこりと笑ってみせて。
    ああ…まあ、そうだよね。 血縁関係なんて、生まれた時から発生しちゃうもんだから。 良くも悪くも、慣れはするよね。
「本当は…もっと前に、お話ししておくべきだった…んですわね。 その上で…決めてもらうべきだったんです、義一さんに」
    …晶子さん?ここ…「仕事場」なんですけど〜。
「決める…って、何を…ですか?」
仕事の喋りを捨てた晶子さんに、実際…かなり慌てながら。 僕は、まだギリギリ仕事中…と取れなくも無い口調を努めて。
「それは…勿論、私と…一緒になって戴けるかどうか、ですわ」
「どうか…って言われても…」
    もう、既に。 結婚してしまっている今、それと言われても。
「ええ…ですから」
    晶子さんは、そこで言葉を区切って。 今まで真っ直ぐ見ていた僕から、視線を…外して。

    …別れて下さっても、構いませんわ。 ものすごく、低く小さく。 それでも…確かに、そう呟いた。

「あ…のですね…っ!」
    突然の僕の大きな声に、晶子さんははっきりと…驚いた顔をして。 実を言えば、僕の方こそ。 自分で、自分の声の大きさに驚いていたくらいだったんだけど。
「僕は…確かに、そういう事に疎くて、他人(ひと)に言われないと気付けないくらい何にも…知りませんけどっ」
    昨日の電話で、南部に言われてしまった事を思い出しながら。 何だか…すごく、腹立たしくて、苛々として。 だから…声のトーンを落とす、なんて事さえ出来なくて。
「知らなくて、気付かないまま…一緒になっちゃいましたけど…っ!」
    そうと言ってしまった晶子さんにも、そうと…言わせてしまった僕自身にも。 どうしようもなく腹立たしくて、口惜しくて…いっそ泣きたいくらいに。
    晶子さん自身に非が有る訳じゃない、長官にだって責は無い、誰も悪くない。 僕の周りを騒がすのかも知れない誰か…だって、本当に好きで騒がせようなんて…きっと、思ってない。
    だって…南部だって、嫌がってたじゃない。 元から身近に居て、僕がそう感じないように上手く話してみせる事なんて…ものすごく簡単にやってしまいそうな奴が。
    …もしも、誰かに責任が有るとしたら。
「知ってても、気付いてても…僕は、やっぱり…」
それは…僕自身にだ、他の誰にでもなく。
「現在(いま)と同じ…結果を、選んでますっ!」
    だって…仕方無いじゃない、好きになっちゃった方が早かったんだから。 そんな…今更知って、気付くような何もかもより先に。

    …晶子さんを好きになっちゃった方が、何よりも早かったんだから…仕方無いじゃない。

「…参謀(ひと)の執務室(へや)で、自分の女房口説いてんなよ。相原」
    いきなり振ってきた声に、慌てて振り返ったら…案の定。 古代参謀が腕を組んだまま、戸口にもたれた格好で…にやにやとしていて。
    慌てるも焦る…も通り越してしまって、半分以上はパニック状態な…僕。
「い…つから、そこに立ってたんですかっっ!?」
晶子さんなんて、僕の後ろに隠れてしまって。
「あ〜? そうだな…うちの秘書が『別れても』とか、言ってる辺りか?」
    …なのに、古代参謀の方は全く平気な顔をして。やっとそこから背中を離して、今更…自動的にドアが閉ざされる。
    …って、さっきまでの僕のセリフ…廊下にまで響いてたって事っ?
「黙って、見てないで下さいよっ!」
「いや…お前がどうやって藤堂を口説くのか、興味有ったから」
    何事も無かったかのように、さっさとデスクまで戻って来て、腰を下ろしながら。
「ほら、とっとと用件済ませろよ」
向こうで真田さんに聞いたんだろう、僕に向かって手を差し出すから。 僕は慌てて、ディスクを手渡して。
「あの…」
「途中経過報告なんて要らねえぞ、最後にまとめてやっとけ。面倒だからな」
    口を開きかけた僕を、先回りして制して。 そのまま続けて、晶子さんを呼んだ。
「そこの…熱出してるらしい『顔の赤い奴』を、ぶっ倒れないうちに自宅のベッドまで運んどけ」
    …それって、僕の事? え?そんなに、顔…赤い?
    慌てて、自分の頬に手を当ててみる。 うわ…ホントに熱いよ…なんて、今更気付いて、余計に…恥ずかしさが立つ。
「命令だ、藤堂」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    陽は落ちたみたいだけど、まだ…外は明るくて。
「…まだ、赤いです?僕?」
「いえ…今はもう、それほどには…」
    そう言えば、こんな時間に。 2人で並んで退庁(かえ)るなんて、今まで無かったよな…なんて思いながら。
「夕食は、私が作りますわね。 ああ…お買い物して帰らなくちゃ…」
何か…普段よりも、少しだけはしゃいで見える晶子さんの様子に。
    今度…一度くらいは、晶子さんの終わるのを待って、一緒に帰ってみようかな…なんて事も。

<< PREVIEW | To be continued...?(3443Hit) >>

| <前頁
Last Update:20040917
Tatsuki Mima