To be continued...?

NovelTop | 第三艦橋Top

    …あいつの方からなんて、珍しいよな。 そう思いながら俺は、島と待ち合わせた場所に向かっていた。

    地球に戻って来るたび、当たり前のように殆ど毎日…のように逢う、雪だとか。 地上に居る間の1度くらいは、何かと理由を付けて…それを邪魔しに来る、南部たちだとか。
「こないだ司令部で見掛けたけど、忙しいみたいですよ。島さんも」
    それとは違って、そんな風に人伝(ひとづ)てばかりで様子を知らされる友人。
    逢えば、こんな話をしようかな…とは、いつも思ってる。 島の方でも、まあ…そんな事くらい考えてるんだろうな…とは思ってる。 だけど、わざわざ日時を決めて逢おうか…なんて事は、どちらからも言い出さないで。
    別に…そうしなくったって、現にこうやって。 無事だ、元気だ…と伝わってきてるんだから、まあ良いか…だなんて。 いつでも、そんな感じで。
    …良いんだよ、何も…起こってないんなら、それでも。
    あいつが怪我でもすれば、嫌がらせのような派手な花束の一つくらい抱えて見舞いに行ってやるし。 いつだったか…俺が大風邪引き込んだ時に、枕元で延々説教してくれた仕返しだ。
    そういう関係なんだよ、元々。 俺たちなんて。

    待ち合わせた喫茶店(みせ)に着いてみれば、わざわざ人を呼び付けておいて…何だよ? その…不機嫌そうな顔は?
「…機嫌が悪い訳じゃない。 ただ…嫌なだけだ」
…一緒だろ、どっちでも。
    俺が注文を済ませるのを待っていたように、折畳んだ紙を一枚突き出して。 俺がそれを受け取ると同時に、頬杖を突いたままの状態で、思いっきり其方(そっぽ)向いて。
    何なんだよ、お前は…。 そう思いながらも、畳まれたものを広げて…内側に書かれている文字を見て。
「…何だ、ようやく決めたのか?」
「お前にだけは、言われたくないっ!」
    日時と場所。 短くて…少しだけ形式張った、挨拶の言葉。 一瞥して分かる、結婚式の招待。
「いや、さあ…お前の場合、色々…有り過ぎただろ?」
    テーブルに肘を突いて、前に…島の方に乗り出すようにして。 こんな…からかうような口調でも、俺は真剣に喜んでるんだぞ? だって…本当に、色々有り過ぎただろう?お前と…テレサには。
「…これから発送(だ)すんだ。 お前に…一番最初に教えてるんだからな、古代?」
    やっぱり頬杖のまま、余所向いたままの島の顔は…不機嫌そうに、それでもはっきり朱を刷(は)いていて。 言葉だけは妙に…恩着せがましくて、偉そうで。
    何て言うか、可愛い…とも思ったが、後が煩(うるさ)そうなので、苦笑しながらも黙っておいた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    今更、俺が何を言うまでも無く。 島とテレサの経緯なんて、あの時ヤマトに乗っていた俺たちは良く分かっていて。 その後がどれだけ大変だったか、それも良く知っていて。
    これまでの時間に、2人ともに身体は癒えた。 それまでの埋め合わせのように、ゆっくりと笑いあうような時間も積み重ねてきた。 これだけの時間を掛けて、島は両親を説得し切った。
「水を注(さ)すようで、何なんですが。 大丈夫…なんですか?この後」
    けれども、テレサに…何一つとして後ろ盾の無い事は変わらない。 地球人で無い…という事も、変わりようが無い。 彼女が、地球に生まれて生きてこなかった…そんな事が、この先どんな問題として表に出て来るのか…分からない。
    だから、ものすごく単純に祝福してやれる気持ちは…8割方。 残る2割…どうしても、不安は隠せない。
「…知るか。島が、何とかするだろ?」
「あ、古代さん。冷たーい」
「古代さんは、ね? 島さんに『先を越された』んで、拗ねてるんですよ」
「誰がっ、拗ねてるんだっ!誰がっ!?」
    どんなに真面目な話も、深刻な内容も。 一度は茶化して…大騒ぎにしないと収まらないのが俺たち…と言うか、こいつらで。
「…った〜っ」
相原には、簡単に一発くれてやったが。 南部には、最後まで逃げられた。
「でも…古代さん? 今度の事で、言われてません?雪さんに」
    何を、だよ? そう、太田に問い返す暇も有らばこそ。
「古代さんは、どうだか…雪さんこそ『先を越された』って、思ってるんじゃないですか?」
ヒトの背後(うしろ)から、しかも耳元で、ぼそ…っと南部が。
    しかも…また、殴り損ねた。

「真面目な話、どうなってるんですよ? 雪さんとは?」
    手元の空いた俺と相原に、南部はそれぞれ缶を投げて寄越しながら。
「どうなってる…も、今は俺じゃなくて、島の話だろうがっ」
「島さんはどーでも良いですよ、こうやって…日も決まっちゃったんですから」
    どうでも良いって、なあ…こら。 当の島が居たら、一発くらい蹴られてるぞ?
「…良いんだよっ、俺と…雪の事は」
    色々有って…一度は目の前にしていた式を、放り出したのは…俺の方。 その段階で、一旦は…完全に雪との事は諦めて。
    それでも…有難い事に雪は、式なんてしなくても、傍に居られれば…とまで言ってくれて。 確かに…俺は、そんな言葉に甘えているとも思うけれども、それでも…こんな現在(いま)も幸せだとは思うから。
「良くは無いでしょ」
    自分も新しく、缶を開けながら。
「雪さんの…女性の言う事なんて、頭っから真(ま)に受けてると、そのうち…痛い目見ますよ?」
一口、口にしてから南部はそう続けて。
「そんな事…」
    在る訳無いだろう…と続けようとして、続かなかった。
    有るんだよなあ…実際。 誕生日を…雪のじゃなくて、俺の…だったけど忘れてたとか。 約束の日に予定が入って、どうしても逢えなくなったとか。 後で思いっきり拗ねられてしまって、閉口した憶えが…。
「特に『結婚』には、夢だとか憧れだとか持ってますからねえ。 女性の言う『結婚なんてしなくても』…なんて、絶っ対…嘘ですから」
    しばしの、無音。 色んな意味で…。
「…何か、妙に…実感こもってない?南部?」
「誰かに、いつか言われたとか?」
「内緒、です」

「何なのよ、この空き缶の数はっ?」
    リビングの風景に、雪の雷が落ちた。
「久し振りで、皆お休みで、島君の事が有ったからって…飲み過ぎよっ。 もう…昼間っからっ!」
…実を言えば、雪の死角になってる辺りで、瓶も2、3本空いてたりするんだけど。 この際、落雷をひどくする必要も無いから…黙っとこう。
    カラカラ…という音を立てながら、雪が空き缶を拾い集めていく。 床の上、ソファの座面に肘を預けるようにもたれたままの格好で、何となく…ぼーっとそれを見送って。
    秘書という仕事の関係上、雪の終業時間は結構遅くて。 今だって、夕焼けなんて何時間前に見たやら…ってほどに、しっかりと夜で。 それでも至極…当たり前のように、司令本部から直接、俺(こ)の部屋に「帰って」来て。
    こうやって…片付けだの、食事の支度だの。 当たり前のようにこなして、遅めの夕食を2人で摂(と)って…たまには泊まってもいくけど、それから…「自分の家」に帰って行って。
『絶っ対…嘘ですから』
    そうだろうな…とは、ちょっとばかり前から思っていなくも無かった。 …と言うより、一緒に居て、話してて、歩いていて…そんな色んな時に、何となく気付かされてた。
「もう、古代君っ。脚が、邪魔っ!」
    ヒトの上に屈み込むようにして、伸ばしてる雪の手が。 俺の向こう側に転がっている缶を拾いたいのだと気付いて、自分が拾って…手渡して。
「…しようか?」
    結婚…式を、きちんと。 島たちに「先を越され」ちまう事には、変わりが無いけど。
    雪は、缶を受け取ったままの格好で、ひとつ瞬(まばた)き。
「…酔ってるわね?古代君?」
「そりゃ…飲んでたから」
右手の缶を、左手の袋に放り込んで。
「酔っ払いは、お断りです」
    どういう意味に取ったのか。 雪は、俺の額を軽く、でも…しっかりと突き放して。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    挙式までのあれやこれや…が、どれだけ雑多で面倒なものなのか。 まあ…俺も、一応は知ってたりするから。 俺の協力出来る範囲、手を出して…何処からも苦情の出ない範囲では、助(す)けてやろうかと。
「俺は、良いけどな。 この…面倒を、もう1回繰り返すのか?お前は、雪と?」
    …あのな〜、島〜っ。 手伝ってやらないぞ?おい…?
「まあ…正直、テレサの方に雪が付いててくれるんで助かってる」
「…雪って言うより、お義母さん…だけどな」
    テレサには、こういう事を分かっていて。 無条件で手を貸してくれる、親も家族も…地球上(ここ)には存在しないから。 だから、それを見かねた雪が手伝い始めたのだが…いつの間にやら、その母親が。
「お前の時も…だったからな」
    誰が、どうだったのか…を省いても、しっかり分かってしまう辺りがすごいかも知れない。
「…言うなよ」
それを身をもって、多分…一番分かっている俺は、溜息を吐いた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    当日の、誂(あつら)えたような見事な好天。 雨が降ったから…といって中止になるような事でも無いが、晴れている方が面倒が無くて良い。

    見るからに、如何にも「新郎」な友人に…つい。
「…似合わないなあ、お前」
「煩いっ」
    お前なあ…その格好でまで、ヒトを蹴ろうと構えるなよ。
「好きで、こんな格好してる訳じゃない」
    俺を蹴飛ばし損ねて…拗ねたように、其方向いてしまった様子が、いつだったか…のようで。
「…笑うなよ、古代」
「いや…だって、お前。 何か…可愛いぞ?」
その時には黙ってた事が、今更改めて…可笑(おか)しくて。
「…何、じゃれてんですよ? 新郎と友人代表が」
    襟首を捕まえられて、島が大仰にわざとらしく拳を振り被ってくるのを。 俺の方でも大袈裟に、とってもわざとらしく当てるなよ…と懇願してる図…なんて。 確かに、余所から見たら茶番でしかない。
「あ、ホントに喧嘩してるし」
「こんな日にまで、何やってるんですか?2人とも…」
    俺も島も、別に本気で暴れてる訳じゃないし。 確かに…こういう日だし、3人に呆れられてまでまだ…なんて気は無い。
「おかげで、南部に負けちゃったじゃないですか〜」
    …は?
「賭けてたんですよ。 航海長と古代さんが、どうしてるか」
「おかげさまで、勝たせて戴きましたけどね」
「賭…けてるんじゃないっ!」
    呆れた俺と島が、異口同音にそう怒鳴って。

    美人だなあ…なんて事じゃなく、何処かで見たような気がするな…でも。 うっかりと、女性を振り返って見送ってたりすれば、ご機嫌良ろしくなくなる雪も。
「…綺麗よねえ」
    引いた裾(トレイン)以外は、至ってシンプルなマーメイド・スタイル。 動きにつれて、わずかに刻まれる薄く青味がかった影は、それが本当には純白でない事を教える。 光を弾(はじ)く色の髪には、いっそ…その方が余程似合っていて。
    緩(ゆる)くまとめ上げた、長い髪。 ヴェールの向こう、紗の掛かった顔は…優しげで、幸せそうで。
「そう…だな」
    結婚式で、花嫁に見惚(と)れる分には…何も言わないんだな…と知った。
    まあ…良いよな。 当の島だって、この姿のテレサを見るのは初めてらしくて、思いっきり見惚れてるのが…俺には分かるし。 もっと想像出来てなかった俺たちが、少々見惚れてようがどうしようが。

    …そう言えば、俺も。 雪がどんなドレスを選んだのか…なんて、全然知らないんだよな。
    俺も、やっぱり…その日には見惚れてしまうのかな…なんて事も思ったりして。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    テレサの今まで…の所為で、極端に女性の列席者の少ない式だけど。 それでも、数人は若い女性も居て、その中の誰かが「私に投げて」と手を振っていた。
    今はもう、ヴェールも引き上げられたテレサに、島が何か教えるように囁いていた。

    過ぎるほどシンプルなドレスに、合わせたようなささやかなブーケ。
「…雪も、行けば?」
    幾ら、そういう事に詳しくない…と自覚してるような俺だって、彼女たちがテレサからブーケを投げてもらいたがっている理由くらい知ってる。
「え…?」
それを最初に知った時は、女の人ってそんなに…早く結婚したいもんなのかなあ…とも思ったけれども。
「良いわよ、私は…」
「『未来の旦那さま』が決定してるんですから、尚更戴いてきちゃった方が良いと思いますけどねえ?」
    また、南部。 それも、また背後(うしろ)から、ぼそ…っと。
「足音立てて歩けよっ!お前はぁっ!?」
    俺も驚いたけど、雪もびっくりしたようで振り返って。 毎度、殴ってやりたいのは山々だが、この場ではちょっと…だし、どうせ…また逃げられそうだし。
「足音させないのは、接近戦の基本でしょ? そんなんだから古代さんって、敵との戦闘回数が無駄に増えるんですよ。 模擬白兵戦」
「結婚式で、接近戦術法語るか…?」
「雪さんも、ねえ?」
    どうやら南部は、俺を無視する方向に決めたようで。 完全に、雪の方に向き直って。
「古代さんがその気になるのを待ってたら、年寄りになっちゃいますよ?」
それでも、しっかりヒトは指差してくれて。
    あのなあ…俺もそこまで、雪を待たせようとか…その気持ちに甘えようとは思ってないぞっ?
「あのねえ…南部君?」
…どうやら雪も、似たような事は思ってるようだが。
「珍しく古代さんも『意味』を分かってるようですから、こういう時にしっかり急かしておくのも悪くはないでしょ? それくらいの事はやっても、罰は当たらないと思いますよ?」
    そう言って南部は、笑いながら雪を追い立てた。

    困ったような顔をしながらでも、雪は案外…素直に追い立てられて。
「今日の『花嫁さん』も、言ってましたよね? 『結婚しなくても…出来なくても』なんて事は」
    この場に居なくなった雪の代わりに、南部は俺の横に並んで。
「…でも、あの通りです」
指し示すのは、勿論…うっかり見惚れてしまいもしたテレサで。
「言ったでしょ? 女性の『結婚なんてしなくても』…なんて、嘘だって」
「…煩い、南部」
    分かってない訳じゃない、何にも考えてない訳じゃない。
    雪は、同じような年頃の女性たちの中で、何か話し掛けられて苦笑しながら答えていて。 もしかしたら、あそこに居る中でも一番…真剣に欲しがってるのかも…とも、俺は感じていて。
「…そのうち、何とかするから放っとけよ」
「…近いうち…とは、言えないんですか?」
    困った人ですねえ…と、南部は苦笑してくれていた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    今日、恐らくは世界中でも一番幸せなんだろう女性の手から、続く幸せを約束する花束が投げ上げられて。 同時に響く、黄色い歓声。 放物線を描いて、落ちていく。
    …狙ったように、雪の真上に降ってくるブーケを。
「おとうさまー、見て見てっ。取ったーっ」
横から掻(か)っ攫(さら)っていったのは、サーシャで。
「取るなーっ!」
「…どうして、お前が交ざってるんだ…」
    兄さんと真田さんは、それぞれにそんな反応を。 俺の横では、サーシャが取ったと見た瞬間から、南部がくすくす…と珍しく本気で笑っていて。
「姪にまで、先越されないようにして下さいよ? ねえ?『叔父さま』?」
「う…るさいっ!」

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Last Update:20040922
Tatsuki Mima