流離

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    ここと…地球の距離は、分かっている。 だから…この後、相見(あいまみ)える事なんて…きっと無い。
「…さようなら…スターシャ…」
    だから…恐らく、本当に…さようなら。

    既に、1人には知れてしまった想い。 それでも…当人にまでは、まだ…きっと知られてはいないはずから。
「…ええ、守…。 お元気で…さようなら…」
    この後、どれだけ離れてしまう距離に、悩ませたりなんて…したくないから。 悩むのは…泣くのは、私1人だけで良いから。

    泣いてしまいそうな自分を見せたくなくて、その場を逃げるように駆け降りた1人。 当たり前だ…と自分で自分を慰めながら、黙って見下ろしていた1人。
    素直に貴方に、ここに残って欲しい…とも、ついて行きます…とも言えなかった自分を後悔しながら。 遠去(とおざ)かっていく艦を、恨めしくも…見送って。
    素直に君に、ついて来い…とも、その傍に残る…とも言えなかった自分を後悔しながら。 小さくなっていく惑星(ほし)を、仕方無く…振り返って。

    それは、もう…1年以上の過去(むかし)。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「何かな〜あ?進君。 その、ものすっごく嫌そうな顔は〜?」
「…じゃれてるんじゃない、古代」
    目の前に居るのは、両方とも「古代」だが。 この場合、思いっきりな溜息を吐きつつ、真田が言っている相手はその「兄」の方で。
「痛い、痛い、痛いっ!」
    その言葉の合間に、弟の方はやっと。 力加減を知らない兄の、遠慮無い羽交い絞めから逃げ出して、肩で息をして。
「…お疲れ様だな、古代」
「見てないで、助けろっ!島っ!!」
    しっかり腕は咽喉(のど)に掛かっていたから、一時…呼吸出来ないでいた分を、ようやく逃れた今。 荒い呼吸にせいぜい取り戻しながら、弟は友人にそう怒鳴った。
「…無理言うなよ、お前は…」
    ベッドの上に、半身を起こしているだけの島は、そう言って。 松葉杖を抱えるように、その足元の隅に腰を下ろしている真田と…顔を見合わせてから、どちらもが…溜息を吐いた。

「何で、兄さんが…ヤマトの艦長なんだよ…」
    古代がぶつぶつ言ってるのは、この際…全員が黙殺する事にした。
「俺は、別に…お兄さんが艦長で不服無いですが」
    過去に、輸送艦隊で。 それまでは見知らぬ者を艦長として、操艦してきた島はあっさりと言ってのけて。
「俺も、別に困らん」
どうせ…ヤマト以外の艦に乗艦勤務などする気も無い真田は、しれ…っとして返した。
「だよな?」
    友人と、弟の友人に、反対意見を述べられなかった事に、大いに満足している守である。
「なのに…何で、文句を言うかね? お前は…」
それから、改めて弟の方を振り返った。
「言うに決まってるだろっ。 よりによって、兄さんじゃなくても…他に『艦長』出来る人くらい居るはず…」
「…馬鹿か、お前は?」
    言いたい事も、全部言わせてもらえないまま。 身長差に、思いっきり見下ろされて。
「白色彗星のお陰で、居そうでそうは居ないんだよ。 ヤマトの『艦長職』のやってられそうな人間は」
守にきっぱり言い切られて、思わず古代は黙り込む。
    わずか一月ほど前までは、強大な脅威だった彗星。 たった一つの彗星の為に、地球…太陽系はとんでもなく傷付いて。
    地球の有する艦隊は、ほぼ全滅。 各惑星・衛星上の基地だけではなく、地表までも傷付いて。 人的な被害なら…もしかして、それ以上。
「まあ…癖有りますからね、あの艦…」
「確かに…古代くらいしか居ないだろうな。 現在(いま)生き延びてる中で、多少なりともヤマトを知ってるのは」
    島と真田の両方にも、畳み掛けられて。 結局の所「実兄が、同じ艦に乗務するのが嫌」なだけの古代は尚更、何も言えないでいて。
「…って事で。 少なくとも次の訓練航海の間は、俺が艦長だ。 文句無いな?」
    乗員の人事決定権は、最終的には艦長が保有(も)つ。 …要するに、文句有るなら下艦(お)ろすぞ…と、暗に言われている訳で。 不承不承、古代も無言で…小さく頷いた。
「じゃあ…とっとと退院しろよ、お前ら。 良いな?」
    真田と島の両方を、等分に指差して、そう言って。 守は、弟を引き摺るようにして病室を出て行った。

「退院しなかったら、何を言われるか分からんな。あいつに」
「…退院を決めるのは、俺たちじゃなくて佐渡先生なんですけどねえ…」
    後に残された、入院患者2人が。 そんな事を言いつつ、深くて永い溜息を吐いていた事なんて、新しい艦長はご存知無かった。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    前回の航海の経緯(いきさつ)は、弟とその婚約者と、友人の口から聴かされていて。 今更…かつて敵対していた惑星の盟主からの通信も、疑う気持ちなど起きなかったが、実際…途惑った。
    忘れた事の無い惑星(ほし)…と言うよりは、まだ忘れられていない…そこに棲む女性(ひと)に関わる事だったから。 あっさりと、その話に乗って転針を命じる事は…ひどく私情が絡むような気がして、即断が躊躇(ためら)われた。

    …結局は、ここに居るのだが。

    デスラーを、その惑星(ほし)の海上まで追い詰めていた、当面の邪魔は追い払ったが。
    彼(か)の惑星はたった1人を未だ…乗せたまま、不安定に流離(なが)れていく事を止めようとはせず。 だから…その後を追っていて。
    「太陽」を失った惑星の、行き着く先なんて…詳しいとは言えない天文学知識でも知れた事。 どの過程(みち)を辿ろうとも、その終着は…いずれは滅亡(ほろび)。 それまでの時間に、差の出るだけ…の事。
    当然、その地上(うえ)に乗せた…何もかも全てを道連れにして。
    だからこそ…ガミラス・地球側ともに何度も繰り返す、1人残る女王への移乗の誘い。
    それなのに、彼女は。 いつかの時と同じように…ほんの微かに、その面(おもて)に困惑を見せながらも、凛として。 あの時と…同じように、自らの生まれた惑星の方を…選ぶ。
    …いい加減にしろよ…。
    ひどく速い移動速度と、入り組んだ宙域(ちけい)に。 どれだけ成績が優秀だったとしても、訓練学校を卒業(で)たばかりの新人には操舵を持て余すような状況。 島の操舵に、既に…北野は手を拱(こまぬ)いて見ているしかない。
    この、異常と言える速度にだけでも…惑星の崩壊は多少なりとも、始まってしまっているはず。 これだけの距離にも、荒れた海が海岸線に打ち付ける波涛が、白く見えている。
    それを景色に見ながら、まだ。 何が…そこまで君を、その惑星(ほし)に執着させる?
    既に、いい加減…苛々と波立っている、この内心。

    それと呼び掛けるのは、交互に…だが。 その全てが、多元通信。 あちらからのやり取りも知れれば、こちらからの呼び掛けも全くの筒抜けで。
    双子の惑星の片割れとして、かつて…誰よりも一番近い距離に生きた者と。 距離はとんでもなく遠く…だが、多大な恩義をどうにも拭い去れない者と。 どちらも、救いたい…という気持ちは同じ。 出来る事ならば、あの…水の惑星の美しい風景までも、を。
    …こいつは、スターシャに…惚れてるんだな。
    この非常事態にひどく冷静に、そんな事に…気付いてしまう俺が居て。 そう…と気付けてしまうほどには俺も、まだ…強く想いを残していたのか…と、いっそ呆れてしまうほど。
    愛しさを、同じように心の底に敷き詰めていながら。 彼女に対して、直接に呼び掛けているデスラーと。 それは、相原と進に任せて…黙り込んでしまっている俺と。
    苛立っているのは、彼女にではなく…自分自身に。 彼女への感情が私情の極みだと知り過ぎていて、立場という名の格好を付けたまま…崩せないでいる俺に。
    望ましいと思う方の、手を取れば良い。 選んだ手が、俺の手で無くたって構わない。 生きてさえいるなら、この…想いは行き場を見失って惑わなくて済むから。

    そうと考えているなら、とっとと…言ってしまえ。
    いつまで、俺は…黙っている?
    素直に…私の艦に来い…と言ってしまえる男を目の前にして、奇妙な羨ましさに歯噛みしながら…一体、いつまで。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    交錯する重力場。 色々な要件が重なって、やっと…流離を落ち着かせた惑星(ほし)に。 そこまでを見失い掛けたりもしながら、ようやくに…追い着いて。
    変わらず繰り返される、それぞれからの移乗の誘い。
「…いいえ」
    私は、このイスカンダル(ほし)を見捨てる訳には参りません。 聞き飽きた彼女の言い訳に、あの男も…俺も、いい加減爆発してしまいそうだった頃。

    途轍(とてつ)も無い、圧迫感。 それに押し潰されそうなほどひどく晒されているのは、自身の生命。
    それ以上に…彼女と、その惑星(ほし)の未来(これから)。

    その男は、最早…敵じゃない。
「…波動砲を準備」
    それでも…お前が、彼女の生命の為に殉じて悔いは無い…と言うのなら。
「兄さんっ!」
「煩(うるさ)いっ、黙ってろ!」
せめて…こっちは、望むままにその身を滅ぼしてやるよ。
「だけど…っ!」
「戦闘班長(おまえ)が撃たないなら、俺が…撃つぞっ!?」
    …恨むなよ?
「…4、3…」
    どうせ…俺は、お前が…嫌いだ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …彼女の叫びに、空気が…凍った。
「イスカンダリウムが欲しければ、差し上げます。 ですから…もう…」
    エンジンの音が…急激にトーンを落としていく。 それと同調するように、艦橋内の…艦内の緊張までもが、解(ほど)けて消えていく。

    誰の為でも無く、彼女の生命の為だけに。 ここを死に場所と定めた男の想いが、無駄になる。 俺たちは、敵でも無い者の生命をこの手で消し去らずに済む事に、思わず…息を吐く。
    何だって…どっちだって、構わない。
    彼女が生き永らえるというのなら、俺は…それだけで充分だったのだから。

    既に、死せる惑星(ほし)とは言え。 故郷を目の前に失った奴は、不承不承…という体(てい)で、仕方無さそうに強大な敵艦から離れていく。
    彼女の生命の為…という理由も、紛(まご)う事無き真実なら。 せめて、憎い敵に一矢報いてやりたかった…というのも、それ以上の真実。
    …痛いほど、良く知れる。
    だって…俺は、そんな想いの為にいつか冥王星に我を張って。 その選択の為に、結果として…彼女と出逢って、そうして…別れた。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    簡単に素直になってしまえるほどには、利口では無かったから。 それと同時に、素直になり切れてしまえるほどまでには、愚かでも無かったから。
「…さようなら…スターシャ…」
「…ええ、守…。 お元気で…さようなら…」
    だから…あれほど綺麗に終わった、あの時。
    後から悔やんだ愚かしさ、即座には諦めの方が先に立った…小利口さ。

    自分の思考に、半分以上焦点の定まらない画面の中。 あの男は、ひどく…ゆっくりと立ち上がって。
「…スターシャ…」
…何よりも先に、彼女の名を呟いて。

    望ましいと思う方の、手を取れば良い。 選んだ手が、俺の手で無くたって構わない。
    生きてさえいるなら、この…想いは行き場を見失って惑わなくて済むから。

    …嘘だ。 それは…嘘だ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    さっきから、オープンのままの通信回線(チャンネル)。
「…来い」
    俺はそう言って、艦長席を立ち上がって。
「来いよ、スターシャ」
画面の中の彼女に、そう…はっきりと手を差し伸べて。
「…私、は…」
    イスカンダル(ほし)を明け渡す事を口にしながら、自分の去就は考えていなかったらしい。 今まで…画面の中には居ながらも、何も言わないできた俺の…今回初めての言葉に、明らかな困惑を…その顔に表(あらわ)して。
「…手間の掛かる女だな、お前は…」
    艦橋内の全ての視線が、自分に集中している事なんて気付いていた。 弟だの、友人だの…ひどく近しい存在の居る事も、忘れてなんていなかった。
    いや…チャンネルの向こう、あの男が聞いているはずだという事を、まず何よりも忘れてなんていなかった。
    ああ…思いっきり、俺だけの「私情」だよ。 放っとけよ。
    席を離れて、一歩…二歩…と。 前方に…画面越しながらも俺は、間違い無くスターシャに近付いて。
「来い…俺の所に」
…敢えて、ヤマトに…この艦にとは言わないで。
「こんな事なら、あの時…無理矢理にでも乗せていれば良かったんだ。 …なあ?」
    あの時…という言葉に、彼女は間違い無い反応を見せる。
「二度も、黙って『見送る』つもりは無い。 だから…来いよ」

    …そうだ。 「あの時」のように、綺麗事にしてみせて…また二度までも、は。
    死を見送るも、去るを見送るも、俺以外の…誰かの手を取るを見送るのも。 彼女を「失う」以外の何物でも無いんだ、本当は。

    それでも…まだ、彼女は困惑を見せたまま、途惑いながらも…黙ったままでいるから。
    俺は、今までの…敵にもあの男にも…それから、自分自身にさえ感じていた苛立ちを抑えようとする事を止めて、そのままあからさまに吐き出す事にして。
「…来ないなら、こっちから連れに行ってやる。 大人しく、そこで待ってろ!」
    感情のまま言い捨てるなり、踵(きびす)を返した俺を。 艦橋内の誰も…言葉と行動では、引き止めようとはしなかった。
「…待って…!」
    ただ…彼女の声だけが。
「…行きます。 準備を…してきます。 だから…」
ようやくに、俺を引き止めて。
「…だから、来ないで…ここに…」

    ぷつり…と、画像が消える。
    恐らくは…彼女の方から、チャンネルを閉ざしたんだろう。 それに巻き込まれるように、敵とも、デスラーの艦の間とも、通信が途切れて。
    相原が振り返ってきたが、別に…あの男の顔も、増してや敵の顔なんぞ見たいとは思わない。 急いでチャンネルを回復させる必要なんて感じないから、首をわずかに振る事だけで、それは制しておいて。
「…勝手に、黙って呆れてろ」
    多分…そう言いかねない友人を、はっきり指差して黙らせておいて。
    彼女に、あの惑星(ほし)に、どんな「準備」が有るのか…は知らない。 だが…女の「支度」なんて、時間の掛かる事は既に承知。
    他人(そと)から見れば、きっと俺は…ものすごく不機嫌そうに。 艦長席に戻るなり、大きく背を預けて、脚も腕もとっとと組んで。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    …何を、どうしているのか。 未だに、彼女がイスカンダルを離れたとは確認出来ず。 彼女の脱出(で)るのを待たずに、巨大な影はゆるゆる…と降下していく。
    今は砲を納めて、取り敢えずは臨戦態勢では無い。
    だが、一度は…彼女の生命を盾に、引き下がる事を要求した相手だ。 いつ…気が変わるとも知れず、こちらがそれを怖れる以上。 どんなに目障りでも、腹立たしくとも、それを黙って見送るしか無く。
    …どれだけの時間が過ぎたのか。 さしもの巨体も視線を走らせる必要無く、一つの視界に余裕を持って見られる…までになった頃。 それをかすめるように動くものを、目にも見て。
    勿論、レーダーの捕らえる方が、視力よりも勝(まさ)って、早かったのは確かだが。

    未だ「敵」の姿が、目視出来るような状況下で。 大恩有る惑星(ほし)の女王…とは言え、指揮の場を離れてまで「艦長」がそれを出迎えるのは、褒められた事じゃないな…などと。
「スターシャ!」
…思いながらも、格納庫くんだりまで来てしまっている俺は…ものすごく正直だな…とも。
「…守…!」
    救命艇のハッチの開くやそのまま、彼女は駆け降りてきた。 この記憶に在る彼女のまま…もしかするとそれ以上に美しくて、息を呑むほど。
    だが、同じ記憶の中の彼女とは不相応な、かなり慌てたような様子でもあって。 抱き止めてやらねば、止まる事など出来なかったんじゃないか…と思うほどの勢いで。
「…逃げて、早く…!」
    この腕の中、殆ど真上を見上げるような彼女の、言葉の意味が…一瞬分からなかった。
「早く、下がって! デスラーにも伝えて…!」
    ただ、どうしようもなく真剣な…何かを恐れている彼女の表情と。
「…島っ!相原っ!」
──…準備をしてきます。だから、来ないで…ここに…。
通信の最後に、確かにそう言いながら、目の前に…何も持たずに居る彼女の姿に。
「イスカンダルの爆発影響圏内から、即時離脱! ガミラス(むこう)にも伝えろ…っ!」
    俺は、自身の悟った事を、第一艦橋に通じる内線に向かって怒鳴った。

    機関室が近いから、回転数(レヴ)の上がった事が即座に振動として伝わる。
    本来なら、その場に居る者にスターシャを任せて、第一艦橋(うえ)に戻る所だが。 彼女自身が、連れて行け…と。 窓外(そと)が確認出来て、通信も適う場所に行く事を望んだから。
    俺は、彼女の格好も歩幅も忘れたような速度で、その腕を抱えるようにして取って…廊下を駆けていて。
    艦外(そと)は見えない、見ている暇も無い。 ただ…足下から伝わってくる振動の質の違いに、反転し終えて全速に乗せようとしてるらしい事を知っていた。
「…っ!」
    ほぼ最下層から、ほぼ最上層まで。 昇り掛けたエレベータの箱の中、俺に引き摺られて息を切らせた彼女が、ようやくに息吐く暇も有らばこそ。
「…爆発したな…」
    ひどく大きな揺れが、一つ。 俺は、したたかに背を壁に打ち付けて。 惑星の爆発の衝撃波を喰らった…と俺が判断したのは、恐らく…間違ってはいない。
「大丈夫か…?」
    問うたのは、最前の揺れに身体を傷付けなかったか…と。 その意味で。
    見下ろす、彼女の表情(かお)は読めなくて。
「…はい…」
わずかに上下する肩が、息を整えようとしている為なのか…生まれた惑星(ほし)の最期を思っての事なのか…は、知れなかった。
    先程とは較べものにならないほど小さいが、不規則な振動が始まって…何も押さえていないでは立っているのが難しいほど。
「…何やってるんだ、島…っ」
下手な操舵手が、艦の安定を保ち損ねて揺らぐように、絶え間無く。

    …何から、彼女を「庇おう」と思ったんだろう?
    気付けば…俺は、捕まえていたはずの腕から手を離して、彼女の肩を抱え込むように…抱いていて。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    消滅(きえ)ようとする惑星から、慌てて離れようとしているのだから。 当然、窓の外…前方には何も見えるはずなど無く。
    後方を、見送るように映し続けている画面の中にも…既に、イスカンダルの姿は…無かった。 有るのは、爆発の残滓。 薄く霞みつつある、爆発の名残。
    さっきからの細かく不規則な揺れは、在ったはずの惑星(ほし)の欠片に、この艦が追い抜かされながら後方から追突(あて)られていた所為。
「艦の損傷は?」
「爆発と衝撃波そのものでは、特には。 ただ…『これ』で、外板をかなりやられるぞ」
真田の指差す画面上にも、ひどい速度で撒き散らされる欠片がかすめては消えていく。
「…だから、とっとと影響圏内から出ろ…って言っただろうが」
「無茶、言わないで下さいよっ!」
    俺の呟いた言葉に、しっかりと喰って掛かってきたのは、島。 止むを得ず当てられてしまっている衝撃から、艦の安定を保とうとしている為に、こちらを振り向きもしないで。
「この短時間に、遮蔽物も無い空間(ところ)で…って言ったら、ワープするしかないじゃないですか…っ!」
    回頭を始めると同時に、ワープ準備に入る…は入ったのだが。 間に合わず、衝撃波を喰らってそれどころじゃなくなった…と、太田が注釈を入れて。
「あっちは…どうなってるんだ?」
    話を逸らすように、問うてみれば。
「この…『星間物質』のど真ん中に居る状況じゃ、通信もレーダーも『妨害電波』受けてるようなもんですよ」
さっぱりです…と、相原が首を振って。 雪が…苦笑した。

    「戦艦」とは言いがたい外見だったが、あれだけの戦闘力と防御力を備えた巨大なものでも。 所詮は、たかが…人工物。 惑星に、引き較べてしまえば…小さなもの。
    地表まで、既に辿り着いていたのか…いなかったのか。 較べものにならない質量の爆発に巻き込まれたなら、流石に…共に消滅(きえ)るしか無かったんだろう。
    …イスカンダルの名残を画面に見ながら、俺は。 少しばかり前に地上から、やはり画面越しに眺めた…白色彗星の錯覚を見て。
「そこまで…生き意地しぶとくなかったようだな…」
それが、錯覚で終わった事に…思わず安堵の息を吐いた。

    艦の安定を保つだけでなく、俺の連絡した時からずっと…あの惑星(ほし)が最後にあった地点からは、遠去かり続けていた訳で。
    飛散するべきものは、この艦を追い越してすっかり散らばってしまい。 後部を中心にした外板の被害状況に、真田が溜息を吐いた頃。 ようやくに、通信が回復した。
    最初に、互いの無事を確認して。 …と言っても、あの男の場合はこの艦に対して…が半分、彼女に対して…が残る半分。
    考えてみれば、行動でも言葉でも、彼女に対する想いをはっきり…と曝してしまった訳で。 俺だったら…取り敢えず逃げるが…などと思いつつ、逃げる訳にもいかない「一国の首領」という立場も大変そうだな…と、的外れた同情も思ってみたりもして。
「…何故、あのイスカンダル(ほし)を破壊した…?」
    画面の中から見下ろすように、問うてくる当然の言葉に。
「あれは、私の…『私たち』の惑星(ほし)ですから…」
軽く両の指を組み合わせて自然に落とした、す…っとした立ち姿で彼女は答えて。
    悪意有る者に、その地に立ってなど欲しくなかった。 貴方だって、そうでしょう…と。
「並び立っていく惑星(ほし)だったのですよ…? 一方が終(つい)えて、もう一方だけ永らえるなんて…在り得ない。 最初から…『独り』では、生きていけない惑星(ほし)だったのです」
    彼女は、そうして…隣人を見。 振り返るように…俺を見て、寂しそうに…微笑った。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    デスラーのひどく傷付いた艦に…こちらも無傷でもなく有り余る物資を有している訳でもなかったが… 補修なり、物資の補給なりを申し入れてみたが、それには及ばない…と断られて。 互いに想いの残る惑星の跡で、そのまま別(わか)って。
    向こうは、生きるべき場所を探す為に。 こちらは…懐かしい場所に、戻る為に。
    技師長は、ついでに「これも訓練のうち」にしてしまえ…と思ったか。 普段なら様子見に放っておくようなかすり傷まで、工作班員総出で修理させてしまい。
    航海長とその補佐は、現在は存在しない惑星の破片が大量に漂っている、航路前方の空間に向かって。 邪魔だ…と溜息を吐きつつ、迂回すべき航路の選定と、その後の航路計算に頭を抱えていて。
    戦闘班長は、期せずして訓練ではなく「実戦」をこなしてしまって、逆に気抜けした連中を。 どうにかしてくれよう…と、せっせと訓練計画を練っていた。

「…意外に、行動パターンが似たり寄ったりだよね。 艦長も古代さんも」
「…何が、よ?」
    相原の言葉に、隣から南部が返した。
「第一艦橋(ここ)とか、食堂とか…後方展望室とか」
「…そっちのパターンね」
    指折り数えるように、続いた相原のとんでもなく省略された言葉にも、何の事を言いたいのか…はっきりと了解した南部が苦笑しながら、また返せば。
「当たり前だろう? 兄弟だぞ?あの2人は」
    至極当然そうに、真田はさら…っと言ってのけて。
「根本的な部分では…一緒ですよね、あの2人…」
島は…微妙な表情で、溜息を吐いた。

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Last Update:20050301
Tatsuki Mima