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NovelTop | 第三艦橋Top

    ここが目的地、後は戻るだけ。 艦は停泊中、取り敢えずの有閑。
「…はいはい」
    浮かれた古代に、適当な返事を返しておいて。
「分かったから、自室(へや)に帰って寝ろ。 …の酔っ払いっ」
「何を今更。 これくらいで酔う訳無いだろ〜?」
そんなセリフを、堂々と言うなっ。未成年っ!
    いや…未成年は、俺もか。
「古今東西、酔っ払いほど『酔ってない』って言うんだよな」
「…笑い事じゃないです、お兄さん…」

    古代を自室に「お兄さんが」蹴り込んで。
「…何処から、毎日毎日酒を調達してるんですか?」
「医務室にいけば、先生がくれるぞ?」
    …どれだけの量を持ち込んでるんだ、佐渡先生は…。 その事に頭痛を感じても、きっと…誰にも何も言われないだろう…と思う。
    まあ…現在(いま)が停泊中で航行も戦闘もしていないから、それも許されるんだろうが。 お兄さんに付き合って、適度にアルコールの入った古代を…ほぼ毎日、部屋に投げ込みに行くこっちの事も考えて欲しい。
「弟の面倒は、ちゃんと見て下さいよ?『兄』でしょう?」
「見てるだろ? 今だって、ちゃんと部屋にまで連れて行ったし」
    …連れて行ったのは俺で、お兄さんは蹴り込んだだけですっ。
「ああ…でも、俺が軍に入ってからだと。 こんなに永く、一緒に居るのは…初めてだよな」
「…お兄さんが、ヤマト(ここ)に来てから3日…ですよ?」
    幾ら戦時中で軍務が忙しくとも、3日も居られなかったなんて考えにくい。 だから、それをそのまま素直に。
「違う。 それから、地球に還るまで…だ」

        ◇     ◇     ◇     ◇

    この惑星(ほし)の風景が何となく懐かしいのは、多分…空の蒼い所為。 今は夜で、空に見知った星座も無いのに。
「…島の弟って、地球か?」
「は…?」
    全く…話のぽんぽん飛ぶ事に関しては、流石に兄弟だな…と。 その所為で一瞬、何をどう訊かれたのか考えてしまった。
「だよなあ。 進より年下じゃ、この艦に乗ってるはずが無いもんな」
もっとも、こっちが答える前に何か1人で納得しているようだったが。
「…古代が話したんですか?」
    いや…古代じゃないかも知れない。 弟の居る…という事だけなら、何度か雑談のうちとして口にした事はあるから。
「いや…お前が、俺に言っただろ?」
「…はい?」
しかし、この3日。 俺は、お兄さんにそんな話をした憶えなんて無い。
    それが知れたのか、苦笑してみせながら。
「今じゃない、訓練学校で…だ。 訊いただろ? 『弟って可愛いか?』って」
    ああ…そう言えば。
    初めの1年と少しばかりの間、お兄さんは何週間に1度…の頻々さで古代に面会に来ていて。 だから、それを結構見掛けた。
    俺は…と言えば、多分その最初の時に行き合わせて、紹介もされて。
「だからお前も、弟が居るんだろうな…と思ったんだよ」
「あれは…お兄さんが始終来るんで、訊いたんですけど?」
    古代がそうと言わなくとも、軍籍が有ると知れる格好をした人が、あまり度々と来るから。 こんな…時代、そうそう暇も休暇も無いだろう隙を縫うように訪ねてくるのは、そうなのかな…と。
    …もう一つばかり理由が有ったりもしたが、それは…別に言う事でもない。
「で、幾つなんだ?お前の弟って?」
「えーと…今年6歳、ですね。 まだ5つですが」
    訊かれて、自分の年齢(とし)からその差を引き算してみないと、次郎の年齢(とし)が出てこない。
「あ?」
それくらい…俺は、その周辺(まわり)に居なかったから。
「そりゃ、また…そっちもえらく年齢(とし)の離れた兄弟だな」
    …だから、訊いたんですよ…とは言わなかった。

「…悪いな、とは思ってるんだよな」
    ぼそ…っと、本当に小さく呟くように。
「何を…です?」
    古代を放り込んだ後、真田さんの所に行く…と言うのを引き止めた。
    いや…久し振りの友人同士の会話をさえぎる権利なんて、俺には無いのだけれども。 一応は「病み上がり」の人間を、遅くまで飲む…と分かっていて見送るのは正しくないような気がしたから。
    それと、もう一つ。
    この空に浮かんで見えるガミラス本星での戦闘以後、工作班…と言うより真田さんはろくに休む暇無く補修に追われていたのだ。 今だってまだ、外部(そと)からでは分かりにくいがそれが残ってもいる。
    その上に、受け取った放射能除去装置はこれから組立が必要で。 これ以上疲れさせてどうするんだ…と、正直…思ったから。
    …真田さんが、忙しい時にはそれを理由に友人を完全にを放置してくれる人だったら、こんな気遣いなんて全く必要無いのだが。
「ああ…何て言うか、俺たちだけが『家族』で居る事に…だ」
    …そうだ。 「地球の為、人類の為」なんて、嘘だ。
    こんな…先の知れなかった航海、まだ無事に還り着けるか…時間の余裕も無い帰路。 ここまで、どれだけの戦闘を重ねたのも、どれだけの死を見送ったのも…結局は全て、家族やとても身近な人たち「だけ」の為。
    好きで…現在(いま)、こんな距離に離れている訳じゃない。
「…古代は喜んでるんだから、良いじゃないですか」
    古代が「戦死」を知った時、どうだったか…を見ているから、そう。
「まあ…進は、な。 嬉しがってもらえないのも、それはそれで嫌だし」
けれどもお兄さんは、そんな事を良いながらも…面白くなさそうな表情(かお)を見せて。
「…も本気で喜んでくれてるようだから、余計…悪いな…と思ってな」
    また…呟くから俺は、良く聞き取る事が出来なくて。

    こっちだって…何もかも、話してしまっている訳じゃない。 だから、その表情を見て。
    良くは聞き取れなかった…あまり言いたくなさそうだった事は、そのまま聞こえなかった振りもした。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    この惑星(ほし)を離れる前日まで、弟と友人と…時々は俺とも。 「地球に還る」事を口にしていたはずの人は、ここに残る事を…選んでしまって。
『…悪いな、とは思ってるんだよな。俺たちだけが『家族』で居る事に…だ』
    …そんな事が、理由の何処かに有ったのかな…と。 俺は…ほんの少しだけ、考えてみたりもした。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    未だ、その星雲の中。 恒星(ほし)の密に眺められる景色は、遠く置き去りにしてきた銀河系の中と…違いながらも同等(おなじ)。
「…なあ、島? イスカンダルって、どれだ?」
「太田か、雪に訊いてくれ」
    2度ばかりワープもしたが、まだ…一番近く後方に見えている恒星(ほし)がサンザー。 だけど…この距離ではその「太陽」を認められても、それを廻(めぐ)る惑星までは探せない。 指差して…など、教えられやしない。
「何か…還っていくのか、出発(で)て来たのか…妙な感覚だよなあ」
    …そりゃ、そうだろうな。 目的地だったはずの場所に、お兄さんが残ったんだから。
「まあ…お前は、な…」
    地球を…と言うより、太陽を。 こんな距離に見た事が有るな…と、何となく。

    少しばかりの、無言。
「…悪かったな」
「何が?」
「俺だけ…浮かれてて」
    一瞬、何の話か分からなかった。
「…似た者兄弟…」
    それが何なのか知れて、素直に呆れた俺の呟きに。
「え…? 何か言ったか?」
この近い距離にも聞き取れなかったらしくて、訊き返してくるから。 俺は、今度ははっきりと聞こえるように「何でも無い」と、とても白々しい事を。
    …他人の俺たちでさえ、生きていた事自体は良い事だ…と喜んでいたのだから、当人たちが浮かれていようとはしゃいでいようと…それで良いだろうに。 まあ…それが過ぎて迷惑掛けられるなら、御免だが。
    そんな事で、誰が…責める?
「俺なんかは、地球に還れば逢えるんだから良いんだよ」
    俺なんか…は。 古代には、地球に「待つ家族」は居ないけれども、俺…は。
「…泣いて良いぞ? 『兄さんと離れて、寂しいよー』…って」
「だ…れが泣くかっ!」
「遠慮するなよ。雪には黙っててやるから」
    思っている事も茶化して言ってしまう俺も…可愛らしくない。 茶化してそれで怒らせても、最後には許してもらえるんだろう…なんて思っている俺は、可愛らしいかも知れない。
「…可愛くねえ」
「どう致しまして」
    悪いな…と、古代が俺に言ってしまうのなら。
    あの時…お兄さんがそう呟いてみせたのは、真田さん相手に…だったのかな、と。 ふ…と、思ったりした。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「次郎君は、良いよな」
「え…?」
    …何で、ここでいきなり次郎の名前が出て来るんだ…と、素直に。
「お前は還るだろ?地球に」
言外に、俺の所には「誰も」帰って来ないけれども。
「…だから、泣けば?」
「泣かない…って言ってるだろっ!?」
    俺に向かってはっきりと噛み付いて、それからぷい…と窓の外を。 これは…本気で怒らせたかな…と、少しばかりの後悔。
    今度は、俺の方が黙り込んでしまった無言。
「…弟なんて、可愛くない事の方が多いんだよ」
    俺の言葉に、確かにちら…とこちらを向いて。 しかしすぐ、無視したようにまた視線を窓の外に向けて。
「だけど、時々…ものすごく可愛いと思う時が有るんだよな」
「…ああ、そう?」
    正直、どうしようか…と思いながらも結局最後まで言った俺の言葉に。 古代は面白くなさそうに、それでも短く言葉を返してきて。
「…と、以前(まえ)にお兄さんが、そう言ってた」

    一瞬…どころか今度は、しばらく俺の言った言葉の意味が掴めなかったらしい。
「…はあ?」
たっぷりと待った挙句に、やっとそんな間抜けた口調で。
    あ、顔が赤い。
「な…んで、お前がそんな亊兄さんに聞いてるんだよっ!?」
「訊いたから、だよ」
    こんなに…再々訪ねてくるなんて、そんなに「『弟』って可愛いんですか?」と。 何だかすごく遠い昔のような気のする、訓練学校で。
『…結局、可愛いって言いたいんですね?』
『それくらいの役得が無きゃ、兄…なんざやってられるか』
    その後に続いたのは、確か…そんな会話だったはず。
「一瞬も考え込まないで、即答だったぞ?」
    不機嫌そうな表情(かお)をして、ろくに話もしようとしない古代(やつ)が。 面会に来る人に、年齢相応に…笑ってもみせるから。 だから…訊いてみた。
「良かったな? 可愛かったらしくて、お前も」
「過去形にするな〜っっ!!」
    …過去形じゃないだろう?
『…悪いな、とは思ってるんだよな。俺たちだけが『家族』で居る事に…だ』
そう思いながらでもお兄さんは、本当に「地球に還る」つもりでいたんだから。
    本当に…あの間際まで。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「お前は…どうなんだよっ?」
「…は?」
    伊達に、古代とも長く付き合ってる訳じゃない。 何となく…だが、何処かで警報(アラート)が鳴っているような気がした。
「お前は、弟が可愛いのかどうか…って話だよっ」
    あ…やっぱり? 嫌な予感ほど、えてして良く当たるもの…なんだよな。
    そして…古代は、伊達に戦闘班長に選ばれた訳じゃないよな…と、俺はいつでも思っていたりして。
「…想像に任せる」
何て言うか…こういう時に、本当にしつこく、反撃の手を緩めようとはしないから。
「誰が、逃がすかよっ」
    先制攻撃も、痛し痒し。 古代がこんな風に返してきた時に、こっちは反撃の為に使える手駒を使い切っているんだから。
    一応は逃げようともしたが、今の古代があっさりと見逃してくれるはずなんて…無く。
「言えよ? 南部たちには、バラさないでいてやるから」
ひどくにっこりと笑いながら、そんな事を言ってくれたりもして。
「バラすな…って以前(まえ)に、あいつらに話すなっ!」

    お前が弟だったら、俺は…間違いなく大っ嫌いだっ。

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Last Update:20050614
Tatsuki Mima