…いつでも、こんな話は滅多に当人の口からではなく、何処か…余所から聞こえてくるもので。
「本当だよ」
言葉でもあっさりと肯定する木崎は、既に…私物を殆どまとめ終わっていた。
「そんなに…慌てて来なくても、黙って行くつもりなんて無かったのに」
そう苦笑しながら、大きくも無い鞄を閉ざした。
「ほら…持てよ?
『友人のお見送り』なら、それくらいの気は使え」
言いながら木崎は、僕にそれを押し付けるようにして持たせて。
◇
◇
◇
◇
まだ、最初の1年も過ぎていない。
まだ…何も、ろくに教わってもいない。
「何で、今頃…っ」
いや…これまでにも、1人や2人の退学者(ドロップアウト)は同期の中から出ていなくも無い。
だが木崎は、少なくとも学校側から追い払われるほどどうしようもない成績を出していた訳じゃない。
つまりは…自主退学という事で。
「元々、2年目までの約束だったんだよ。
それが…ま、ちょっとばかり早まっただけだ」
僕に荷物の全部を持たせて空手の木崎は、さっさと階段を降り掛けて行く。
持たされたものをしかた無く両手で抱くようにしながら、僕はそれを追い掛けて行く。
「約束…?」
「息子の『寄り道』を、4年もそこらも待ってられるほど。
俺の親父は『若くない』…って事だ」
あと数段を残した所で、木崎は追う僕をやっと振り返って。
「お前の親父さんほどには、な?」
「南部だって、訓練学校(ここ)に入学(く)る前に…反対くらいはされただろ?
親父さんに」
「まあ…それは…」
確かに、その通り。
親としては当然の反応だろうから、ほんの少しばかり悪いな…とも思いつつ、せいぜいに言い包(くる)めたのだったが。
「親父の場合は、親…としてより『経営者』として反対したんだよ。
だから『2年目までの退学』の約束だったんだよ。
それが、親父の許せる最大限だった…って事だな」
それも、何となく分かるような気がした。
…それでも。
「だけど…それなら、今からでも…」
「今からでもわがまま言って、卒業くらいまでは…と思ってたんだけどな」
僕の言いたい事なんて分かりやす過ぎるのか、木崎にあっさりと先回りされてしまった。
「…親父が倒れちまったんなら、こういうのも仕方無いだろ?」
そう言って木崎は、薄く…微笑って。
「確かに『じいさま』だけど、親父が嫌いな訳じゃないもん。俺は」
続けた言葉では、いっそ…はっきりとにこやかに笑って。
ああ…そうか。
もう…完全に決めているんだな…と。
引き止めるなんて事は出来無いんだな…と、その時に思った。
◇
◇
◇
◇
広いように思っていた訓練学校の敷地も、結局は有限。
もう…そこに、正門が在って。
退学の手続を済ませてしまった木崎は、このままその外に出て行ける。
反して、外出の届を出してもいない僕は、そこより先には出られない。
「いちいち言う俺(やつ)が居なくなったからって、言葉…戻すなよ?」
僕の手の中から、自分の荷物をやっと取り上げながら。
「ただでさえ、名前だけで目立つんだ。お前は。
せいぜい『周り』に合わせて、紛(まぎ)れてろ」
目立って…良い事無かっただろう?
そう…苦笑して。
「本性なんて、それが必要になる時までせいぜい隠しとけ。
良いな?」
そう言って木崎は、空いている方の手を軽く挙げて…それが、最後だった。
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Last Update:20050812
Tatsuki Mima