当たり前のようだが、島は居た。
古代の鳴らしたドアチャイムに出て来て、少しばかり…意外そうな表情(かお)をして。
それは…そうだろう。
相原や南部に引き摺られるようにして出た先に、やっぱりお前も来てたのか…な逢い方をする事の方が絶対的に多いような古代が、わざわざ玄関先に立っていたのだから。
どうしたんだ…という短い言葉さえ終わらないうちに、ちょっと出られないか…と誘う。
あんまり聴かせたくない、聴かせて良いのかどうか分からないテレサは、室内(なか)に居るだろう事は問わずとも分かっていたから、最初から。
そのままドアの外でも良いか…と思っていたのだが、まだこんな遅くも無い時刻だ。
外廊下に早速、誰かと擦れ違って…さて、どうしよう?
そんな様子に苦笑しながら、島が。
「車で来たんじゃないのか?古代?
車内(そこ)で良いよ」
…と。
呆気無く、島の方から振ってきた事に多少途惑っていれば。
「お前が何を言いに来たのか、大体…分かるから」
そう言って島は、また…苦笑しながら。
古代よりも先に立って、エレベーターの方に向かった。
◇
◇
◇
◇
勢いで来てはみたものの、実を言えば…何からどう話せば良いのか困っていた古代だ。
「話が広がるの…って、早いよな」
苦笑交じりの溜息に、そんな言葉も一緒に吐き出す島に、少なからず…ほっと息を吐く。
サーシャと守に同時に知れたから、そこから広まり切っている…と思っている島だ。
古代と雪、真田と相原…までで止まっているとは、まさか…である。
「お前さあ…変じゃないか?」
受け売りではなく、逢ってみて本当にそう感じた。
「…何が?」
雪に聞かされた通り、雪が訊いた時のままの答えを返す島に、変だよ…とさらに強く。
「何が…って、俺にはお前が『楽しくなさそう』に見える」
確かに微笑う、苦笑しても見せる。
だけど…それだけ。
仕事が絡む時ならともかく、普段の島はただの青年だ。
ごくごく普通に感情の起伏を見せて笑うし、泣きもする。
分かりやすい…と突っ込まれてしまう古代ほどじゃないとしても、その点何ら変わりない。
古代の言葉に、きょとん…としたような表情をしてみせた島に。
「俺には…お前が、今度の事を『嬉しがってる』ようには、どうしても見えない」
動かない車の運転席から、助手席へ。
指差し、重ねてそう…言い放った。
ああ…そうだよ、どうせ俺には分からないだろうさ。
全く同じように、好きで一緒に暮らしている女が居ても、俺は。
そうと告げられた事がある訳じゃない、まだ…父親じゃない。
だけど…俺なら、きっと…手放しで喜ぶと思うから。
家族の増える…という事に、きっとどうしようもないくらいはしゃいでしまうと思うから。
「それは…そうだろうな。
俺はあんまり…いや、多分…全然、嬉しい…とは思っていないから」
…なのに、島はそんな言葉で。
こんな俺の、今思っている事を根こそぎ引っ繰り返してくれた。
何だか、ものすごく腹が立った。
だけど…それを、どうぶつけて良いのか分からなくて。
だから、沈黙してしまう車内。
「…相手が、例えば…雪だったら喜べるよ。俺だって」
静かさを打ち破ったのは、そういう島の言葉。
何で「例え」が雪なんだ…と俺は、的外れた部分に思いっきり引っ掛かって…ちょっとむっとして。
自分でも分かっていたが、それが思いっきり顔に出ていたんだろう。
「言い換えようか?
『相原の彼女なら』…って」
やっぱり苦笑しながら、島はそう訂正して続けた。
雪が「例え」から外れただけで、すう…っと冷静になっていく自分自身に、困った奴だよな…と思っていた。
俺が舞い上がってどうするんだよ…と、自分自身に言い聞かせながら。
「それ…って、相手が『地球人なら』って意味…か?」
言いながら古代は、サーシャの顔を思い浮かべていた。
全く同じように、地球人とそうでない女性の間に生まれてきた姪の事を。
「…1度だけなら、それは偶然って言葉で片付けられてしまうんだよ。古代」
まるで、それを見透かしたような言葉が、車内(そこ)に響いた。
1度だけなら、偶然。
2度3度と重なっても、単に運が良かった…と。百回ほども繰り返したら、やっとそれは…当たり前で普通の事になるんだろうか?
「その最初はサーシャだけど。
同じような『2度目』が無事に生まれてくる…って保証は、何処に在る?」
◇
◇
◇
◇
「あの…何だったんですか?古代さん…」
恐る恐る…と訊ねてくるテレサに。
何でもない、仕事の話だったから…と、微笑って…嘘を吐く。
「休暇を願っただろう?
その所為で少し、他人(ほか)の予定が変わってくるから」
全くの嘘でもない。
実際に輸送艦の副長には、一航海の責任を押し付けた事になる。
古代には、それが全く関わってこない…というだけで。
騙した方が親切だ…と思うなら、きっと自分だって騙す。
仕方無くとは言え、嘘を吐く事とポーカーフェイスを作る事に慣れてしまっている自分には、呆れるばかり。
「…私の、所為ですか?」
休暇を願ったのは。
後を続けなくとも、それは分かってしまった。
「いや、まあ…そうかな」
テレサを連れ出すには、まだ暑過ぎる季節。
前々から考えていたと答えるには、それまでにそれらしい素振りを見せなさ過ぎた。
誤魔化し切れないと思いながら、下手な嘘を口にするよりは良いだろう…と、そのままを。
済みません…とか細く言う言葉よりも、どれほど強く負い目を思うか…なんて考え切れないまま。
言葉のまま、俯いてしまった頭をそ…っと、腕に抱く。
「…傍に居るから」
身動(みじろ)ぎもそのまま、自分の言葉さえも抱え込んで。
『2度目が無事に生まれてくる…って保証は、何処に在る?』
本当は…古代に問うたんじゃない、それはそのまま自分自身に。
選んだ女性(あいて)が、例え…同じこの地球(ほし)に生まれ育っていても。
どれだけかの確率を持って、生まれる事の適わない子供たちは…確かに居るから。
彼女が彼女である…という事だけで、その確率がどう動くのか分からないのなら。
「ずっと、傍に居るから…」
…何も要らない。
子供が居て…なんて、当たり前の未来も望まない。
何かと交換にしなければならないくらいなら、俺は…最初から彼女だけを選ぶから。
少しばかり強かった腕の力に、感じた息苦しさから逃れるように、俯いていた顔を上げて。
それでも…やはり、溺れる者がしがみ付いてくるような、その精一杯なきつさ。
「…はい」
ただ、それだけを。
傍に居て下さい、私も…居ますから。
続けたいそれは、呑み込んだままで。
思う事を吐き出してしまうより、内部(なか)に抱え込んでしまう方がよほど得意な2人とも。
そんな自分の気持ちごと、お互いをきつく抱きすくめて。
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Last Update:20051007
Tatsuki Mima