「…って、何で昼(いま)にも南部が居るんだよ〜?」
午前中の仕事が忙しく押す訳でも無く、ごく当たり前な時刻に昼休みに入った相原の前に、やっぱり南部が居た。
帰還直後や出航直前の、書類の提出のある頃なら相原もそうは訊かない。
朝から居ても昼を過ぎる事なんてしばしば、下手したら定時で終わる相原と大差無い時刻まで掛かったりもして。
そうじゃないからこそ、相原が訊いた訳だ。
「遊んでました、真田さんの研究室(ところ)で」
「え〜?南部さん、ずる〜いっ!」
但し。
そのセリフに言葉を返してきたのは、何故かサーシャだったが。
「お義父さまの所に行くんなら、私も呼んでくれれば良いのに〜っ」
「…仕事は?」
そんなサーシャに突っ込んだのも、何故か南部では無くて相原の方だったが。
「お義父さまの邪魔してないでしょうねっ」
「まさか、ですねえ」
お嬢さんがお邪魔するよりは、迷惑掛けてません。
南部にそう胸を張って言われて、サーシャの方は思いっきり頬をぷう…っと膨らませた。
そんなこんなで、このメンバーでの昼食である。
当り障りの無い会話を挟みながら、昼食は滞り無く。
3人のうちの2人は、午後も仕事が待っているのだから特に急ぎもしないが、それほどのんびりと…でも無く。
朝と違って、サーシャは当然制服だったが。
特に、化粧っ気の無い顔でもやっぱり「女性」はあれこれと時間を喰うようで。
少し早めに…と、2人とは別れて。
「…で?」
「はい?」
サーシャの後姿が、その先の角を曲がって見えなくなったところで、相原が。
隣から、とても短く話を振ってこられて、素直に南部が訊き返す。
「何も理由ナシで、朝から真田さんの邪魔しに行った訳じゃないでしょ?」
「邪魔してませんってば、失礼な」
真田さんが相手なら、関係無い人間が視界の範囲内に居るってだけで充分邪魔…と。
今度ははっきりと、言葉にもして。
「だから、何考えてるんだよ?」
真正面に向き直るじゃなく、そのまま横から相原に肩口を引っ張られて。
「え〜…まあ、ちょっと考えてる事も無くは無いんですけどね」
南部は苦笑しながら、今話しましょうか?…と、相手の昼休みもさほど残っていない事を承知ながら、わざと言ってみたりもして。
「後で」
「え〜?
定時まで、何処で時間潰しましょうかねえ」
「…って、帰れってばっ!
夕方に、僕が官舎(そっち)に行くからっっ!」
◇
◇
◇
◇
「知ってそうな気がしたんですよ。
真田さんなら、何か」
まずは、端的にその理由だけを。
「…って、何だと思ってるんだよ。真田さんを〜」
真田は確かに、飛び抜けた知識量と知能程度と発想力の持ち主だが、あくまでも人間(ひと)、神様では無い。
だから、相原としてはその辺を突付いて返したつもりだったのだが。
「古代参謀の同期で、友人」
「…は?」
何か…ちょっと違う方向から、さらにその答えが返ってきて。
酒ならともかく、訊ねて行っても茶の一杯出すような気も無い…と言うより、そもそもその為の道具から無いと承知しているから。
ここに来る途中で、しっかり飲み物を調達してきている相原だ。
…それを、辛うじて置いてあるグラスを借りて、供しているのも相原の方だったが。
受け取る南部の方が、そういう状態を当たり前のように思っているから困ったものである。
「島さんの事…って言うより、テレサさんの事には…ですけどね。
やたらと首突っ込むじゃないですか、古代参謀って。
でしょ?」
「いや…まあ、それは否定しないけど…」
しない…では無く、否定のしようが無い。
どちらかが、もう一方と同じ…またはひどく良く似た状況を繰り返している。
その殆どは、島の方が守に在った過去を追い掛ける形で。
それは同じ艦橋から、相原も南部も見てきているから。
「だから、今度も…って?」
その可能性は、多分低くない。
だから、守が友人である真田に話している可能性も、あれこれ巻き込んでいる可能性も無いとは言い切れない。
「でも、真田さんが聞いてるとは思わないんだけど」
だが、ついさっきも南部に言外にそう伝えたように、真田は神様ではない。
万能でも、全知全能でも無い。
話した、巻き込んだからと言って、全てがあっさりと丸く収まる訳じゃない。
そもそも真田には妻帯の経験が無い、夫人の妊娠も無い。
それを飛び越えた「育児と教育の経験」が有るだけで、今回常識の範囲以上の役に立たない…気がするから。
「聞いてると思いますよ、俺は」
しかし、そんな相原の考えもまたもう一度、あっさりと引っ繰り返す。
「だって、サーシャとアナライザーが知ってて、真田さんに言ってないはずが無いでしょ?」
…う〜む。
と、悩むところである。
確かに、こういうメンバーが知ってる事だと、その話題の終着点は真田になるような気もしなくは無い。
そこから先に「拡がらない」という意味では、間違い無く終着である。
「関わってくるかな〜、真田さんが」
相原の呟くのも、ごもっとも。
少なくとも、真田から好き好んで動きそうな話題と事態ではないだろう。
「古代参謀が動けば、後始末に動かざるを得ないと思いますが」
「…何だと思ってるんだよ、参謀を…」
「古代さんの、実兄」
こういう問いに何の途惑いも無く、暗に…と言うよりはきっぱり「トラブルメーカーだ」と言い切ってしまう南部も南部だが。
「…って、そういう認識もどうだかな〜」
苦笑しながらそれに返して、否定しない相原も相原である。
「島さんが関わってますから、下手したら兄弟で真田さんを巻き込みますよ?」
付き合いもそこそこ長いし、比較的近くで見てきているから、古代と島を「仲が悪い」ようには見たくても見られない2人だ。
知らない所で既に、古代がじたばたしてる可能性はあるな…とは、2人とも。
◇
◇
◇
◇
その通り、古代はじたばたとしていた。
但し、内心…で。
一度、守に煽られるようにして島に直接ぶつかったまでは良かったが、あっさりと追い返されてきた。
元より口でだと、島にはそうそう勝てない古代なのだから、仕方も無い。
追い返された事を、雪にも守にも言わず…と言うよりは「言えない」で。
1人不機嫌にその事を考えているので、現在のところ…この方向からの真田への影響は無い。
「午前中(あさ)、南部が来たぞ」
しかし、その兄には既に巻き込まれ済み…の真田である。
「あ?
朝、だ?」
定時は過ぎて、そろそろ日も沈む。
入口脇の秘書の席には、晶子の姿は無い。
守の仕事も片付いていたのは事実だが、真田が来た事でとっとと帰れ…と追い出されたからだ。
「何しに来たんだ、朝っぱらから」
流石に守も、娘に実弟、その奥方。
それから、相原のスケジュールなら把握していたりもするが、それ以外は必要が無いならば知る気も無い。
書類提出の為なら、朝から司令本部(ここ)に居る事はあっても、科学局には居ないだろう。
その場合なら午後、うっかりすれば夕方にならないと真田の前には顔を出さないだろう。
守も元々は、一艦を任された事だってある人間だ。
そこまでは、言われなくとも何となく分かる。
南部が、休暇に朝寝を決め込む人間だ…と相原が知っているなら、真田も同じ事を知っている。
だから、何も無くて陽の中天しない午前(まえ)から出歩く南部じゃない…とも分かっていた。
「他に無いだろう?」
「…物好きだな」
あの時、思いっきり口止めはしておいた。
だが…南部になら、まとめて口止めを掛けた3人の誰が相手でも「ここだけの話」って奴で、伝わる事は有るだろうな…とは思っていた。
だから、守もそれには驚きもしない。
「いや…アナライザーから聞き出したらしいぞ?南部は」
アナライザーは何がそこまで気に入ったのか知らないが、基本的に佐渡について廻っている。
「先生(そっち)の方から聞き出すか、南部(あいつ)は」
しかし、真田にもついて廻っている。
これまた、何が気に入ったのか知らないが。
「ロボットの口止めは、俺の管轄じゃないな〜」
本人同士にそういう自覚が有るかどうか、良く分からないが。
医師であって軍籍も有る佐渡は、科学局の所属となる。
要するに、真田の管轄下…という事だ。
当然、そのどっちかに付きまとっているアナライザーも、その所属…という事で。
「俺の所為にするな」
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Last Update:20060113
Tatsuki Mima