他人を殺した、とても…たくさんの人を。
遺恨も無く、恨みも無く、私に殺意さえ無いままに。
…いいえ、私の意志など関係無い。
この私が…私の能力(ちから)が原因で、誰かを死なせてしまった…という結果だけが、その全て。
失われた生命は、戻ってくる事は無いのだから。
『どちらを選ぶのも、貴方の勝手よ』
「自由」では無く「勝手」だと。
いつかのように…また殺してしまう事も、そうとはしない事も…どちらもただ、私の身勝手なのだ…と。
そうね…身勝手だわ。
まだ生まれない生命を、私の感情だけでどうしよう…と考えているのだから。
『でも、誰を信じてきたのか…を見失ったら、今ここに暮らしている意味が無くなるわ』
誰を…なんて、今更…誰に言われなくとも。
まだ、見失って…なんていないはず。
…だって、島さんは…ここに居るから。
◇
◇
◇
◇
背を軽く引くものが在って振り返れば、テレサが…裾を捕まえてそこに立っていた。
「…何?」
「いえ、あの…」
問えば答えながら、指を解(ほど)いて放す。
それで、やっと真正面に向き直る事が出来て、改めて。
「何…?」
…と、もう一度問うてみた。
問われて…困る。
こちらを向いて欲しかった、どんな言葉でも構わないから声が聴きたかった。
そんな言葉で説明になるのかしら…と思って。
「…テレサ?」
困惑をその面(おもて)に見て取って、今度は名を呼んでみれば。
「…済みません」
戻ってきたのは、何故か謝する言葉。
テレサの側では、説明出来ないから…という意味で。
けれども、島の方からはそんな事思いも寄らない。
不意に出て行くと言った時の泣き出しそうな表情(かお)に、謝らなければならないならきっと…自分の方。
そう思ってもいたから。
「ごめんなさい…」
説明も出来ないような、詰まらない事で手を止めさせて。
曖昧に消えていく言葉の最後と同じように、その視線はゆっくりと俯いて。
「…あの、島さん…?」
「いや…顔が見えないから…」
何を…と問えば、そんな言葉が…足下の方から。
テレサは立ったまま、子供の身長でも無い。
だから、その場にしゃがみ込んでみせた島との差はむしろ大き過ぎる。
いつか…同じような事が無かったかしら?
こんな風に、低く見上げられてしまった事が。
遠過ぎる、見上げる視線に合わせようとするように、その場に沈む。
膝折って腰を浮かせたままでは辛いから床の上に、全く…座り込んで。
その姿勢からだと、今度は逆に島を見上げる事にもなったのだが。
「…俺の所為?」
「え…?」
「君が謝るのは、俺の所為…?」
色んな事を考えてしまう、それも…あまり有難くない事ばかりを。
楽しくも無い自分の思考に、疲れてしまうのもまた自分自身。
素直じゃないから、当たり前のように嘘も吐く。
疲れていなければ騙し切れるだろう嘘も、表情(かお)に言葉に間抜けに曝(さら)して知られてしまう。
子供なら…良かったのに、どちらともが。
分かり切ったような嘘にも、簡単に騙されてくれる馬鹿馬鹿しいまでの素直さと。
自分の嘘がもう知られている事にも気付かないで、だから…罪悪感も知らない無邪気さと。
自己嫌悪は、嘘ばかりの自分にでは無く、騙し切る事の出来ない自分にも。
嘘を引っ剥がした後に残る自分は、ただ…情けないほど弱くて詰まらない…だけだから。
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Last Update:20060126
Tatsuki Mima