守は、いつだって唐突である。
いや…当人としては十二分に深慮した上での言動のつもりなのだが、そこまでの思考が殆ど言動に出ないから、他人からは唐突にしか見えないだけだ。
そして、その日もそうだった。
守だとはっきり知れるような、忙しいチャイムの音に慌てたのは前回と同じだが。
玄関まで迎え出るのは、座り込んで次の航海に書類を書き始めていた島より、キッチンに立っていたテレサの方がほんの少しだけ早かった。
「…揃って、お出迎えか?」
「成り行きですっ」
おかげで今日は「遅い」…と理不尽に思われる叱責を喰らわなかった代わりに、そんな言葉とそれ以上に何か言いたそうな表情(かお)に出くわして。
1人でも真正面に立たれれば、通ろうとするには邪魔だ。
それが2人でも3人でも、押し退(の)けて通れば済む事だし、そうする事に遠慮も無い。
「邪魔してないで退(ど)けよ、ほら」
島だけなら突き転がしたとしても遠慮しないが、その横にテレサが居ると流石にそれも出来なくて、言葉で追い払った。
◇
◇
◇
◇
そのうち…と言って帰った今日なのだから、この前に書かされた事の結果だろう…とは思った。
だが、それ以上に何故「今なんだ?」…とも思った。
夕食も疾(と)うに終わってゆっくりしていた、帰宅の途中で寄ったんだろうと思った前回。
なのに今回は、太陽が中天に輝いている時間だったから…である。
「昼休みに出てきただけだ」
もっとも、それに付いては玄関に居るうちに、あっさりとそう答えられてしまっていた。
要するに、時間が無いんだからごちゃごちゃ言って邪魔するな。
もっと簡単に言ってしまえば、質問するな…という事だ。
「また…テレサ、ですか?」
ただ…だからと言って、本当に全く無言で話を待っていると、それも逆に時間が掛かる。
「いや…今日は両方、だな」
言葉は対面している島に返しながら、手はその後ろを呼び付けていた。
手招かれて、素直に近付いてきたテレサの目の前に、封筒をひとつ。
表も裏もまっさら…何も書かれていない封筒を、また素直に受け取るが…それだけ。
経験的に、こういったものの中には書類の類が入っている事が多いと知っているから。
封を開ける、中身を引っ張り出す…事は出来ても、何が書かれているかを読めないから。
何も無い表から、中を見透かすかのようにじ…っと、少しの間。
それから、ちょっと…困ったような顔をして、テレサは島を振り返った。
「お前は…こっちな。ほら」
おかげで、別々の方向からほぼ同時に、2つの封筒を受け取った島だった。
取り敢えず、自分に…と渡された方を引き出す。
折り畳まれた裏側に、微かに透けて見える罫線に、何か…未記入の書類だな…とまでは即座に見当は付いたけれども。
多分…ここ最近では、これほど意外だった事は他に無かったかも知れない。
「…え?
…って、あの、これ…」
自分でも、一体何を言いたいんだ…とは、ほんの少しだけ。
そう思った事でむしろ、少しばかりは冷静に戻る事が出来た。
「…どうしろって言うんですか、こんな書類…」
「記入(か)いて提出(だ)せ。
それ以外に、他の使い道有るか?」
それは、確かに。
後生大事に抱え込んでいても、意味が無い。
それ以外に使い道の無い用紙だとは、確かに思うのだが。
「提出(だ)したって…」
受理されませんよ…と続けたかった言葉は、守の言葉に遮られた。
「そうかどうかは、テレサに渡した方を見てからにしろよ」
自分に向かって見ろ…と言うのなら、何故最初にテレサに渡したんだろう…と思いつつも、それは口にしないで言葉には従う。
開いた口から覗く、折り畳まれた書類を1枚。
引き抜いた後にも何か…封筒の底に残っているのに手触りで気付いて、引っ繰り返して手のひらに受けた。
滑り落ちてきたカードは、こちらに裏を見せていたけれども…表を向けずとも何だか知れた。
知れたから、それを手にしたまま先に引き出した書類の方を…慌てて開いた。
「…提出(だ)せるだろう?」
さっきまで、島の前に立っていたはずの守は、いつの間にかテーブルを廻って。
背に両腕を預けて、脚を組んで…何だかとても、偉そうに。
◇
◇
◇
◇
自分に渡された封筒も、テレサに渡された方の封筒もまとめて。
すぐ横で、何だか分からずにきょとん…としてこちらの顔を見上げていたテレサに、押し付けるように手渡して。
「ちょ…っと、お兄さんっ。
来て下さいっ!」
折角、今落ち着いたばかりの守の腕を取って、引き摺るように。
何がどうなって、どうしたら良いのか分からなくて、その場にそのまま立っていたテレサに。
廊下への出口で、守を先に追い遣りながら振り返った島は。
「そのカード、身分証明書だから…持ってて。失くさないように…っ」
それだけを、言って。
1人、リビングに取り残されてしまったテレサは。
思い出したように、手渡されてしまった封筒と書類とカードを、わずかに首を傾(かし)げながらちょっとだけ…眺めて。
『失くさないように、持ってて』
そう言われた言葉を思い出したように、カードだけをポケットの奥に大事そうに仕舞いこんで。
残りを…また、どうしよう…と2人の慌しく消えた、リビングの入り口から廊下を透かして見て。
諦めたようにテーブルの上に置いて、キッチンの方に戻っていった。
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Last Update:20051014
Tatsuki Mima