また明日:01

NovelTop | 第三艦橋Top

    毎日毎日、殆ど同じ事の繰り返し。 まるで…6年前と同じように。
    あの頃と違うのは、目的地の…無い事。 これといった宛ても無く、広範囲に渡る膨大な観測から慌しく航路を作って、迷子のようにふらふらとして探し廻って。
    恒星は輝きをもって、その位置をあちらから示してくれる。 ちょっと観測すれば、惑星の有る無しなんていとも簡単に知れる。 その上に少しばかり詳細に調べれば、生存の適いそうな惑星(ほし)なのかどうか、ある程度の振り分けは出来る。
    けれども…机上では、そこまで。
    実際に何処まで条件に適っているか…は、ある程度近付かないと知れない。 環境要件がどれほど揃っていても、既にそこに生きている「知的生命体」が居れば、それだけで対象外。 そして、その有無は…眼下に見下ろすほどまで寄らねば、まず分からない。

    どれだけの観測を、無駄にしてきた。 それと同じだけの…時間をも、無駄にしてしまった。 これから先をやはり、どれだけ無駄にしてしまうんだろう?

        ◇     ◇     ◇     ◇

    今回の航海では、航海班員の員数が少しばかり多い。 これから進もうとする方向の、航路観測・計算は今までと変わりなく必要で、省きようも無いが。 それ以外の観測・計算が、あまりに広範で大量…だから。
「非戦闘時の戦闘班なんて、暇人の集団なんですから、せいぜい使えば良いんですよ」
    一つの端末の前に陣取って、一見しては何だか分からないような数値の羅列を、結構な速度で入力しながら南部が、あっさりと。
「訓練学校卒業(で)てるなら、航法も基礎くらいやってますからね。一応は」
    基礎しか分からないから、数値入力くらいしか役に立てない…のも、事実だが。 そこそこの打鍵速度を持つ南部の「お手伝い」が、かなり有難く感じてしまうほど忙しく、時間に追われているのも実際。
「必要なだけの人数は、ちゃんと揃ってるよ」
「必要『最低限』の…でしょ。 余裕が有る訳じゃないですよね?島さん?」
    回答を求めているでもない、そんな軽い問いに。 名指しで問われた島は、何も答えなかったが。 太田がその後ろで、思わずうんうん…と頷いてしまった。
    いま少しの余裕が有るようなら、太田はともかくとして。 島がここまで、第一艦橋(うえ)の自席を空けているはずが無いのだから。

「そうだよねえ。 どう頑張っても、これだけの人数しか居ないんだもん」
    これだけの人数…とは、勿論。 この艦に乗務しているだけの人数…という事で。 これだけ離れた位置に居ては、人員の補充など及ぶべくも無い。
「そんな事をしみじみ言ってる暇が有るなら、お手伝いしてきなさいよ。君も」
    訓練学校で、航法の基礎…という点なら、南部も相原も同等。 いや…現在、この艦内に居る殆どがその通り。 民間から、訓練学校を経(へ)ずに軍籍を得た乗員なんて、雪や佐渡…と言った医療スタッフを中心に、生活班くらいにしか居ない。
    元々、ヤマトという艦は、訓練学校出身者の率が異常に高い。 恐らくは、最初の航海がそうだったから、それが慣例付いてしまっただけなのだろうが。
「してるよ、空いてる時だけなら」
    何もしていないように言われてしまうのは、心外だ。
「通信班って人数少ないから、どうしてもそんなに手伝えないだもん」
    平時と戦闘時では、忙しさと重要性に極端に差が出る戦闘班とは違う。 どちらの状況下でも内容に差があまり無いからこそ、暇…と呼べるほどの時間は出てこない。

「大体、無駄に多くない?戦闘班…」
「無駄に…って、失礼な。 『戦艦』だよ?この艦は?」
    現在、戦闘班に所属する南部を捕まえて、そうと言える相原の度胸も大したものだが。
「だって、本来『戦艦』である必要なんて無いじゃない。 『第二の地球』を探すだけなら、重要なのは観測・航路計算と地学・気象学・生物学…でしょ?」
言っている事が、間違っているとも言えない。
「まあ…結果的に『戦艦』だったから、今こうやって生きてるんだけど」
    まさか、太陽系を出ないうちから、大規模な戦闘に巻き込まれるとは思っても居なかった。
「惑星の観測・探査と、仕方無く戦闘を平行しなきゃいけないなら。 調査船と戦艦を組ませた方が、ずっと合理的だよね?」
    先日の通信で、移民局の発足と共に知らされた、今後の探査計画のように。
「資源輸送船団と、護衛艦隊…みたいに、な」
役割の、はっきり分かれている方が。 調査船には戦闘員を乗せる必要が無く、艦の全てを惑星探査の為だけに使う事が出来る。
    第一、今の南部のように。 非戦闘時の現在(いま)にも慌しい他部署に、妙な負い目を感じなくとも…済む。
「でも、ねえ。 ヤマトが護衛に廻ってるとして、のんびり構えてると思います? 島さんも真田さんも、雪さんも」
「…無理じゃないかな…」
    本来の航路計算に支障無いギリギリまで、観測も引き受けていそうな航海班。 探査用機器の調整に、むしろこっちに居付かなさそうな工作班。 あちらの艦内環境維持にまで、しっかりと関わっていそうな生活班。
「もう…皆様方、真面目な働き者で肩身が狭いわ。 俺辺り…」
    南部の呆れた溜息も、戦闘の無い今現在では冗談でも何でも無く。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「初期観測の結果では、この範囲…に移住可能な惑星は無いようです」
    現在位置を中心に置いた広範囲宙図の、中央辺りをぐるりと指し示しながら。
「…意外に、地上探査まで持ち込めないもんですね」
条件の揃った惑星が、ごろごろと転がっているとは流石に思っていなかったが。 こうまで数少なく、行き当たらないとも思ってはいなかった。
    太田の今更な愚痴も、仕方無い。
「詳細な星間宙図を作る為に、観測してるようなもんだな」
「…お前まで、そんな事を言うなよ。島」
    ここが第一艦橋だから、まだしも。 新人も多い、これだけの長期航海の経験も少ない航海班員の前…なら、相当な問題発言だ。
    そうと命じている、航海班のトップが。 自分さえ観測に関わりながら、その結果を最初っから諦めているような言い方をするのなら。 少なからず、動揺を呼ぶ事は間違いない。
「次に、銀河系中心方向(こっち)の方に航海(こ)なきゃいけない時には、楽出来そうですよねえ」
…全然動じない奴も、第一艦橋(ここ)になら居るが。
「2度も3度も、こんな所まで来る訳無いだろう?南部?」
「何言ってるんですか、古代さん。 少なくとも、観測したエリア内を突っ切って『還る』でしょ? 地球に」
    この場合、南部の言葉の方が正論。

「『地形』知ってれば、途惑いませんしね。戦闘時に」
    今回、限界を競うようなワープは無い。 余裕を持った距離を、細かく刻んでいくばかり。
「通信も、楽かなあ。 『地形』分かってる方が」
    相当な遠距離でも、分光(スペクトル)観測で恒星の種類は簡単にはじき出せる。 太陽と同じ「G2型」で無いなら、それだけで観測対象から外される。
「重力レンズとか、星間物質の影響が読めますもんね」
    同じく分光観測で…但し、ある程度距離が近くなければ分からないが、惑星の有無が知れる。 惑星を抱えていていない恒星は、当然だが対象外になる。
「『地形』の影響受けるのは、レーダーも同じですよね。 航路計算だって、変わってきますよ」
    それよりもまだ、近い距離に限られてしまうが。 恒星と惑星の距離が観測出来れば、その惑星に大気が存在する場合のおおよその気温が、計算ではじき出せる。 そこまでが、さっき太田の言った『初期観測』。
「航海班の観測全てが、全く無駄になってる訳じゃない…って事だな、島?」
「…それは、分かっているんですけどね」
    …分かっていても、軽い溜息を一つ。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    特に何も無い限りは、日に2回の定時のワープ。 それを区切りに、繰り返されるルーティンワーク。 最前のワープ明けから、まだ1時間と経っていないのに。 次々と増えていくだけの、対象外の恒星(ほし)。
    太陽と同じ、スペクトル型分類上のG2型の恒星は多い。 その中で1つ以上の惑星を抱えて、恒星系を成しているものも少なくは無い。 それでも。
「丁度良い距離に惑星が在る…って、意外に低い確率なんですねえ」
    言葉少ない室内にはっきりと響く、誰かの素直な感想。 自分自身、そうと承知していても。 余所から言葉として聞かされると…結構、痛くもある言葉。 恐らくは、誰にとっても。
「入力、終わりましたけどー?」
「早過ぎるって、相原…。 データ拾うのが、追い着かないだろ?」
    そんな、何だか間の抜けたやり取りが、現在この場の白けた空気を一掃していく。
「じゃあ…観測の方、手伝う?」
    通信機器とレーダー監視機器の取扱いは、紙一重。 レーダーと観測機器の取扱いも、大差無い。 確かに当人の言う通り、観測の方に廻って役に立たない相原じゃない。
「航海班(うち)の連中の仕事取るなよ、お前はさあ…」
「ここは良いから、相原」
    口を動かしてるくらいで、簡単に手の止まるような太田でも無いから。 その事に関して、何の口を挟むつもりも無かったが。
「暇が有るなら、雪とレーダー替わってやってくれ」
太田が第一艦橋(うえ)を離れているという事は、雪がレーダーから離れられずにいるという事。
    太田も気を付けて戻るようにはしているが、雪の生活班長としての仕事の方がどうしても、滞りがちになってしまっているはずだ。

    大丈夫なのに…と、口では言いながら。 それでも、少しばかりほっとしたような顔をして降りていくところを見ると、やっぱり相当に無理もしているかな…と。
「何が有っても、減らないもんねえ。 生活班の仕事も…」
それも今更、相原が独り言(ご)ちるまでも無く分かり切った事。
    それにしても…静かな、第一艦橋。 呆れた事に…雪の出て行った今、相原しか居なかったりする。
    雪は今、出て行った。 航海班の2人は、さっきからずっと第二艦橋(した)に居る。 山崎も、当然のように機関室(した)だろう。 真田は…工具か図面のどちらか持参で、艦内の何処かには居る。
    砲塔のどれかが連動上手くなくて、さっきのワープ直前から南部はそっちに居るはず。 古代は…艦長になってしまって以来、真田以上に艦内での行方が知れない。
「皆、妙に忙しいんだよねえ…。今度の航海って…」
    はっきり、艦長・副長という肩書きの増えた3人は当たり前として。 任務の特殊性の所為なのか、太陽系を離れる前から立て続いた戦闘の所為なのか、誰もが今まで以上に余裕が少ない。
    他人事のように呟きながら、1人淋しく「お留守番」の相原だって、大した余裕が有る訳じゃない。 この間までは司令本部、少し前からは移民局との定時の通信を含めて、地球との交信が今まで無く密…過ぎる。
    それぞれ配下(した)に抱えて使える人数は、少しばかり増えたはずなのに。 それを越えた慌しさが、それぞれに覆い被さって。

    時間の猶予は、1年程度。 時間に追われてしまう…という事では、最初の航海と変わらない。
    …けれども。 往復29万6千光年と定められた、最初の航海とは違う。 条件に合致する惑星を探し出す事さえ出来たなら、明日にでも艦首を地球に向けられる。
    それなのに、未だに見付からないままでいる。 今日も…候補すら探し出せないまま、過ぎていくだけなのかも知れないでいる。
    追われる時間の中でも、前に進みさえすれば目的の達せられると信じていられた、あの時とは違う。
    探し当てねば…戻れない、叶わなければ…滅びるしかない。 あの時とは違う。 差し伸べられて、すがり付く事の出来る「何処からかの手」は…無い。
    努力や気力では、どうにもならない。 惑星の環境要件は、既に在るもので…そんなもので変えられるものでは無いから。
    明日の1度目のワープまでに観測されなければならない範囲の、既に6分の1ばかりが対象外としてはじかれてしまった。 今回も、まだ…何も無い。
    吐き出してしまいたい溜息も、呑み込んで。
    静か過ぎる室内(へや)に否応なくそれは、大きく…響き過ぎるから。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    エレベーターの扉の開いた時、艦長席に隠されずに見える範囲には誰も居なかった。
「済みませんね。 雪さんじゃなくて、僕で」
ここしばらく確かに、員数が少なくなりがちな第一艦橋だが。 レーダー席には、雪か太田のどちらかが詰めているとは思っていた。
    笑う相原に、その通りを言い訳にしておいて。
「お前だとは、思わなかったんだよっ」
「…レーダーって、通信班長(ぼく)の管轄下なんですけどね。本当は」
    人員に余裕の在ったはずの無い最初の航海の時から、広域レーダーを雪が扱えたから。 だから「生活班長が、レーダー監視に就く」という、例外的な状態がそのまま続いているだけの事。
    他の連中は…と、古代が問うて来るから。 想像通りの所に全員居ますよ、きっと…と返しておいて。
「そろそろ、太田は戻って来ますよ。そういう時刻ですから」
艦長という肩書きの増えてから、ばたばたとして落ち着けない古代よりも。 第一艦橋(ここ)から離れることの少ない相原の方がよほど、他人の「時間割」を承知している。
「太田が戻って来れば、島さんも大体すぐ帰って来ますし。 南部も…そろそろじゃないですか?」
    噂をすれば、影? 古代と相原の会話に、名前の出なかった真田が戻って来た。
「あ、真田さん。お帰りなさーい」

「照準付けるのには、全く問題無いんですけどね…」
    故障とも言い切れないような、砲塔のご機嫌斜めな様子を南部が、真田相手に説明してる中。 太田が戻って来て、それに少しばかり遅れて島も戻って来た。
    機関に何ら異常は無いが、もたもたとして憶えの悪い新人連中を徳川に押し付けて…いや、任せてきた…と、山崎も上がってきていた。
    いつもと変わりなく、これといった問題が無いならば、雪はこの後も数箇所に仕事が残っているはず。 しばらくはまだ、第一艦橋(ここ)には戻って来られないだろう、恐らくは…それで雪の「今日一日」が終わってしまう。
    航路を第一に、明日の予定を。 今の時点までの観測で…やはり近日には、地上探査にまで持ち込めそうな惑星の無い事を告げるのも、聞かされるのも、有難くない事だったが。
    それが、現実。 誤魔化しようの無い、事実。
    週に1つ…程度の確率でしか、環境要件を満たしているだろう惑星を見付けられない。 地上探査に移って、今まで…裏切られずに終わった事も無い。
    探査目標が見付からない…と告げるたびに、軽い失望。 探査結果に裏切られてしまうたびに、やはり…同じ失望をまた繰り返して。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「…ま、明日辺り地上探査の予定も立てられるでしょ」
    能天気な、無責任にも聞こえる言葉も、全く根拠が無い訳じゃない。
「あ、そうか。 前回から、もう1週間経つもんね」
日数で均(なべ)た場合には、また1つ、それらしい惑星の見付かる頃。
    航海に日限のある事は、いつかと同じ。 今日が終われば、それを1日減らす事まで同じ。 それでも、今はまだ。
「明日は、忙しくなりそうだな」
100%にはとても足りないものも、そうだ…と信じて疑っていない振りも出来る。
「待った、真田さん。 探査に掛かる前に、ご機嫌取っといて下さいよ? 砲塔の」
    まだ…その程度の、日数の余裕は有るから。 無駄にした時間より、タイムリミットまでの方が…永いから。
「それも、明日…な?南部?」
    不調を分かっていて、明日まで待つような真田じゃない。 艦全体としての任務も、個々の仕事も。 誰もが過ぎる時間の速さに、少なからぬ焦燥を、いつでも感じてはいて。
「はいはい…。じゃあ、また明日…ですね」
    口ではそう言いながら、この後…真田を引っ張っていこうと、しっかり考えている南部。

    口惜しいけれども、時間の流れに人間が出来る事なんて、たかが知れているから。 敵わない事は、潔く引き下がってしまう事も仕方無く。 その方が…きっと、利口な判断。

    急がなければならない、その事は。 不必要に焦る事では、決して無いだろうから。

「…また、明日」
    身体を休めるべき時刻に、軽く笑ってみせながら、おやすみの挨拶を。
    そして、本当に…また続く、次の日に。

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Last Update:20040821
Tatsuki Mima