賭けようか?:01

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    ヤマト生活班長、森雪。 女性に、年齢は…訊くものではない。
    客観的に見て、美人だと言える。 スレンダー気味で、その辺りは個人の好みも有るだろうが。 均整の取れたラインには、10人が10人「スタイルの良い」と言うだろう。
    元々が、看護師。 地上に居れば、司令本部で長官秘書。
    そしてこの艦内では、先に言った通り生活班長としての仕事の外(ほか)に。 第一艦橋ではレーダー手として、医務室では看護師として…まさに三面六臂。 しかも、そのどれをもそつなくこなす…という、非常なマルチタレント振り。
    それでいて…それもやはり、看護師という仕事を選んだほどの所為なのだろうが、言葉も表情も…恐らくは性質から優しい…とくれば。 ぼー…っとのぼせ上がった男の1人や2人、その身近に作ってしまっても無理は無いかも知れない。

    その所為なのか、どうなのか。
    ここ一週間ほど連続して、日替わりで「愛の告白」をされてしまっている雪だった。

    昨日は、同じ生活班の。 一昨日は、航海班の。 それから今日、つい…さっきには戦闘班の。
    告げられる言葉は、好きです…なんて可愛らしいものから、結婚して下さい…と性急なものまで。 本当に、とりどりで。
    皆が皆、今回の航海からの新人さんばかり…も、当然よね。 それ以前からの人なら、私と古代君の事…なんて全部知ってるはずだもの。
    古代君との事は…別に隠すような事じゃないし、隠すつもりも無いけど…わざわざ言い触らす事でも無いし。 艦長になったりして、古代君…妙に気負ってるから。
    …にしても。
「何なの? 今度の新人さんたちって…」
まさか、女の子を捜す為にヤマトに乗った訳でも無いでしょうに…。

        ◇     ◇     ◇     ◇

「ああ…それ、賭けてんですよ。 新人連中」
    雪の疑問に、あっさりと答えたのは南部。
「雪さんを、誰が落とすか…辺りでしょうねえ。 きっと」
    その言葉に、呆れたのは雪だが。 慌てた…のは、古代の方。 当然だ。 事も有ろうに「賭けの対象」が、現在の婚約者の「気持ち」なのだから。
「知ってたんなら、止めさせろーっ!!」
「…別に、良いじゃないですか。 雪さんが『落ち』ない限り、古代さんに実害無いんだし」
    詰め寄る古代の剣幕なんて、何処吹く風。 世間一般的に、まともな意見を述べていない方が堂々としていて、説得力が有るのは…第一艦橋(ここ)の常。
「それも、そうだな」
「…おい、島…」
仕事を離れると、役職や肩書きが「上」な方が妙に…弱いのも、いつもの通り。
    たった1年の時間に、移住可能な惑星を見付ける…なんて。 与えられた任務としては、かなり重くて、時間的にも切羽詰まったもの。
    出航から4ヶ月以上、その分だけ残された時間も失くなっているという事。
「裏返せば、それだけ慣れてもきた…って事ですよ。 新人連中も」
    当たり前だが、納得なんて出来ていない古代を、まあまあ…と精一杯太田が宥める。
「こういう慣れ方なら、慣れなくて良いっ!」
    それで、あっさりと宥められてしまうような古代じゃない。 何しろ、元の話題が話題だ。 いつまでも引き摺ってしまう方が、普通だろう。

「慣れたんじゃなくて、お暇になったんでしょ」
    ここが何処か…と言えば、実は数日前からガルマン・ガミラス本星に。 今、第一艦橋(ここ)に真田と相原が居ないのは、工作船の一つで出てしまった所為。
    工作船団の太陽制御が成功裡に終われば、この航海は…終わり。 当初の「第二の地球を探す」という任務は果たせなかった事になるが、その理由が太陽に有ったのだから、それで一向に構わない。
    現在、戦闘をしている訳でも無く。 それどころか、航海…さえしている訳では無い。 寄港・停泊している状態では、変わらず仕事に追われているのは生活班くらいのもの。 補修や整備の必要も有るには有るが、その辺り…デスラーがしっかり命じてあるようで、工作班もお気楽なものだ。
「『恋愛』を、賭けられるくらいに」
    他人様の惑星(ほし)で、まさか「戦闘」訓練も出来やしないから。 戦闘班なんて、本当に暇を持て余している状態。
    そういう南部だって、元が退屈を嫌う性質(たち)だから、尚更。
    ここに留(とど)まって以来、個人の携帯する銃以外の小火器の分解掃除と。 引っ張ってきたアナライザーを助手代わりに、自席コンソールの内部調整とを。
「…お前も、分解掃除してやろうか?」
「遠慮スル。 僕ハ、真田サンノ方ガ良イ」
    もう…掃除でも洗濯でも、何でも良いから、俺に仕事をさせてよ…の状態。
「俺たちだってやりましたよ? 雪さんを…ネタにした、賭けくらいの事は」
「ああ…そう言えば、やったなあ」
    南部の暴露と、あっさりとそれを肯定した太田のやり取りに。
「…って、何をっ?いつだよっっ!?」

        ◇     ◇     ◇     ◇

「一番最初…って、冥王星過ぎた辺り?」
「基地の残存を、全部叩いてから…だろ?」
    自分たちのやり取りに、古代が慌てるとか騒ぐとか…なんて、結構いつもの事。 今更、慌てもしないし、特に弁明する気も無い。
「雪さんの年齢(とし)は…ってのが、最初でしたよ。確か」
「ちょ…っとっ。何よ、それっ!」
ただ、滅多に無い雪の反撃は…怖い。
「だって…あの頃の雪さんって、年齢不詳だったじゃないですか」
「年上っぽく、見えたんですよ」
    学生からいきなり、ヤマトに投じられた古代以下「訓練学校出身者」より。
「20(はたち)から22に集中してて、全員…外れました」
今、南部が苦笑しながらそう言うように。 既に、実務に就いていた雪が大人びて見えたのも、当たり前といえば当たり前。
「まさか、俺たちと同い年だとは思わなかったですよ」
「…太田君? それ、どういう意味かしら?」
「あ…いや…」
    口は、災いの元…とは、良く言った。

「…古代が、いつ雪に告(い)うか…っていうのも、無かったか?」
「それは、帰路(かえり)ですねえ」
    けらけらと、笑って答える南部は放っておいて。
「…何で、お前が知ってるんだよ?島…?」
文句の言いやすい島の方をしっかり選んで、喰って掛かる古代だった。
「俺にもしっかり、廻して来たんだよ」
    言いながら、自分を指差す島にも。 南部はまだ、けらけらと笑ってみせる。
「…島〜っ!?」
「賭けてないっ、俺はっ!」

「今と同じ、『誰が、雪さんを落とすか』ってのも、しっかり有りましたよ」
    …と、南部に言われても雪には。 最初の航海で、今のように「連日、アプローチを受ける」という事態には遇った記憶は無い。
「いや…そういうんじゃなくて。 どっちかって言えば、雪さんが『誰に気が有るのか』って方ですかねえ?」
「…おい」
    婚約者…つまり、実際に「落としてしまった」古代にしてみれば、どうしようもなく面映(おもはゆ)く。 それでいて…ひどく、その結果の気になる賭けのネタだ。
「あら…誰と、噂されてたのかしら?私は」
    反して、雪は。 最初の航海の、殆ど最初…と言って良いほど早い時期から、古代が気になっていて、古代しか見えていなかったような部分が有るから。 逆に、どれだけ無責任な事を言ってくれていたのか、興味を惹かれる。
「古代さんと航海長…が、殆ど同率で人気有ったよな?」
「第一艦橋(ここ)に居たからねえ、雪さん。 どうしても、ここの人間が上位占めるのは仕方無いでしょ」
    無責任なようでも、それなりにはバレてたのかしら…などと、雪がちょっと可笑(おか)しくも思っている横で。
「…よりによって、こいつと…かっ!?」
雪の相手として、自分の名が挙がっていた事が妙に嬉しい反面。 島と同列に見られていた事が、変に口惜しい古代が騒ぐ。
「ヒトを、指差すんじゃないっ」
    島のその言葉と同時に、古代の右手は叩き落とされていた。

「でも、どうして島君だったのかしら?」
    意識していたのだから、それが多少表に出て見えて、古代と…と言うのは分からないでも無い。 だから、敢えて古代の名は省く雪だ。
「…古代と、一緒に居る事が多かったからじゃないのか? 席も、隣(こう)だし」
    それに付いては、当の島がさら…っと。
    一時期…確かに、雪がかなり…本気で気になってはいた島だが。 只でさえ、今…こうやって不機嫌の見えている古代に、改めてそんな事を思い出させて不機嫌を煽る必要は無いから。
「あ、それ…多分、当たってますよ。 一緒に居るのを、良く見る…って理由が多かったですから、2人とも」
    これ以上、古代のご機嫌を…という点では、南部や太田にしてもその通りだったから、特に重ねて煽ったりはしなかった。
「…私、そんなに古代君と居る所を…見られてた訳?」
    「古代君たち」では無く、はっきり古代1人だけを念頭に置いての、ちょっとした雪の疑問。
「…何を、今更…」
「居たじゃないですか、ものすごく…」
「…しかも、その『場所』が決まってたし」
    それに返ってきた言葉は、同工異曲。

        ◇     ◇     ◇     ◇

    ふ…と、古代が思い付いて。
「まさか、今でもやってない…だろうな?」
そう、問うてみれば。
「やだなあ、古代さん。やってる訳、無いじゃないですか」
南部がにこやかに、あっさりと答えて。
    …という事は、今。 俺と雪の事をネタにして、面白がられてたりはしないんだな…と、古代が胸を撫で下ろした所に。
「そんな…全艦巻き込むような、大掛かりな賭けなんて。ねえ?」
「…やってるんじゃないかっっ!!」
「だから〜、古代さんと雪さんのネタなんて、無いですってば」
    最前もそうだったが、古代が詰め寄ろうがどうしようが、南部はけらけらと笑ったまま。
「いつ、籍を入れるのか…だけですよ。今は」
その代わりに太田が、今回のとどめを討つ。
「…何だ? まだやってたのか?それ…?」
    いや…本当のとどめは、それに続いた島の言葉だったかも知れない。

「動きの少ないお二方より、面白い対象居ますしね。今」
    そう言いながら南部が指差した…のは、今は主の居ない通信席。 居ない…と思って、はっきりと言われたい放題な相原だ。
「…って事で、賭けません? 太陽制御に掛かる前に、逢う機会が在るか…逢ってくるかどうか」

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Last Update:20040902
Tatsuki Mima